世田谷パブリックシアター 『TSURUBE BANASHI 2023』

 フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの『リラックス』が鳴ってる。鶴瓶のステージではスパッとした音楽がかかっていることが多いけど、今日は80年代前半の音楽らしい。あー。内省的なことがめっちゃ嫌われていた時代さー。生きづらかったー。さ、そんな時代、あんな時代、いかなる時もその器の方円に合わせたり合わせなかったりして生き抜いてきた笑福亭鶴瓶の「今日の」TSURUBE BANASHIは、なんか今まで見た鶴瓶のステージと違う。のどの調子が悪くてコロナの検査をした話から始まったけど、フリ→オチと、てきぱき一つずつ進める華麗なスタイルじゃないのだ。なんていうか、蛇行しながら少しづつ筆を滑らせて、ひとつひとつにこっそり種をまき、はっ気が付いたら一筆書きで竜の胴体描けてるじゃん的な?よすぎる例えかな?ぼそぼそ話しながら後ろへ戻ったり、戻らないでそのまま笑いの種を捨てて行っちゃったり。調子がつかめると面白いけど、今日ちょっと、捨てた種多かったね。そして描写は薄かった。わたしは「いただきます」に返事をする人がツボで、あとは川が汚れているのでいろんなものが捨てられるとこのアナーキーさで笑った。一か所珍しく鶴瓶は詰まり、「あれしてたんです。(間)散歩。」となっていたところがあった。どうしたのさ。だめだね。だめだ、という方法論を捨てる道もあるよね。もっと竜の一筆書きをするのさ。でも、心配いらん。なぜなら、鶴瓶の「日常生活のおかしいところ」は、大鉱脈だからだ。そのことは鶴瓶もスタッフも、骨の髄からよーくわかっているみたいだった。いいね、70代、この話でどんどん行こ。

 ホテルで違う部屋をノックする話、ドレッシングの話、お惣菜の蓋シール、自動販売機の話、どれもキレキレだ。笑瓶の話もよかった。笑瓶がする自分の弟子入りの話は、気脈通じるふたりの若い者の情景で、私は大好きだったんだー。