東京建物 Brillia HALL 『BACKBEAT』

 初期ビートルズの一員スチュアート・サトクリフ戸塚祥太)の恋人アストリッド(愛加あゆ)が、なんかいまいちつまらない女の人に作られたまま放置されているのは、これ演出(石丸さち子)の意図なのかな。スチュとアストリッドの愛は、フェイクにすぎない?彼らの愛と、スチュとジョン・レノン加藤和樹)の愛情が交差してむき出しになる時も、んーと、ここで、なんていうか、「手の中に隠した小さいナイフ」を閃かすはずのアストリッドなのに、精彩がない。スリリングじゃない。いままで見せなかった深いジョンへの敵意を、ぎらっと出して詰め寄らないと。ブロンドの、ほっそりと美しい愛加あゆががんがん働かなかったら、二人の愛は「フェイクで終了」だよ。演出の人、それでいいのか?あれだけの写真を撮る女の人が、全く興味の持てない、見たことのある台詞回ししかしないのはいかん。がんばれ。

 この『BACKBEAT』がこれほどの生演奏をいくつも含んだ芝居だったとはびっくりだ。最初の1、2曲はびっくりのあまり「上手いのか下手なのかわからない」状態で経過してしまったよー。10代後半、二十歳そこそこの彼らはハンブルグで死ぬほど演奏させられ、上達し、エプスタインに聴かせたり、ハンブルグ最後の一夜の演奏を見せたりする。「原始ビートルズの原液」を感じる。特にアストリッドに視線を送るところ(『Please Mr.Postman』)、「その時の」ビートルズを目撃している気分だった。ただし、最後の『Twist And Shout』にはグルーヴがない。何にもなくてもノリはある、日に10時間も演奏して頭角を現していくバンドなら、そこが大事だよね。

 スチュとジョンは顔を見合さない時も愛し合っててほしい。面白い芝居だし演奏もその楽しさ(バンドやるのって楽しいんだね…とおもう)がよく伝わる。けど、どちらも出来が甘い。芝居は演奏(と優れた曲)に寄りかかっているし、まだまだひよわな演奏は芝居に助けてもらっている。とにかくね、グルーヴ、グルーヴですよ。『悲しき願い』で有名な尾藤イサオが熱唱するシーンがある。得した気持ち。