東京建物 Brillia HALL 『舞台 中村仲蔵 ——歌舞伎王国 下剋上異聞——』

中村仲蔵」。破れた蛇の目傘の水を切る、びゅっという音が聞こえ、その飛沫が見える。傘を握る仲蔵の細くしろい骨ばった手、黒い着物、朱鞘(しゅざや)の刀まで頭の中で順に思い浮かべてから「…かっこいい。」っていう。顔は、そうだ、やっぱり、藤原竜也だったのかもねー。思ってた通りだったねー。この細身のしゅっとした侍は、江戸時代の実在の人物、中村仲蔵という俳優が作り出した、忠臣蔵のオリジナルキャラクターである。今日の芝居は、二幕三時間で端役から名題(劇場前に看板をあげられる人気役者)に出世した彼の生涯を追う。仲間内で目立つために折檻され、さまざまのつらい目に遭う仲蔵だが、「やりてえ芝居ができねえなら、死んだほうがましだ。」という強い気持ちを背負い、一歩、また一歩と這いずるように地歩を固めてゆく。これね、やっぱ、「中村仲蔵」って咄がめっちゃ面白いよね。四代目市川團十郎高嶋政宏が安心でき、金井三笑今井朋彦)のにくたらしい立作者がいい。

 課題は大体二つ。①一幕が込み入ってる。②劇場が3階まである。誰も追いつけないくらい早く仲蔵(藤原竜也)の養母(志賀山お俊=尾上紫)が出てきて、仲蔵は血を吐くようないい台詞をぜんぜん場のあったまらないうちに言わなくちゃならない。たいへんだけど、いい台詞だから、工夫して、しっかり心の階段降りてから言ってほしい。この一幕、ずいぶん役者に被(かず)けられているなー。そして②につづくけど、3階まであるということは、「音」(おん)を頼りに芝居を観るお客さんがいる。怒鳴ると怒りしか伝わらない。もっと技巧的に怒鳴り声を扱わないと、3階席けっこうmiserableだよ。市原隼人の三味線はいい音がしている。しかし、舞台の仲蔵と呼吸を合わせるとこまでがんばれ。あと台詞を「うたってる」。台詞を覚えるときの調子がのこってるのだ。

 「シミ一つねえおろしたての木綿」のような男は劇界にはいない、というんだから、一幕の人たち、もっとキャラ立てないと。池田成志、鼻に抜くいつもの発声、四十年保ったのはそのキャラのおかげなのかな。役柄にもっと真向かいにむきあわないとね。