新橋演舞場 熱海五郎一座 『スマイル フォーエバー ~ちょいワル淑女と愛の魔法~』

 すいすい流れる芝居、と観客が思う、ということは、舞台に立っている当人たちにとっては、上演中の時間が、きらっきらに感じられたのかなあ。カーテンコールの三宅裕司は初日の出来にちょっと泣きそうで、ステージはほんのすこししんみりしてるのだった。ええー。要らんそんなの。

 伊東四朗ってもはや神様かもねと思ってしまうのは、伊東の周りをパノラマのように物語が展開してゆき、サポートが万全であるせい、だけではないな。伊東は臆せず芝居に飛び込んでゆく、老人なのに若い者が学ぶ魔法学校へ、惧れて当然な死の中へ、老人が嫌がるはずの車いすに乗って。臆さない、これ、伊東の大事な資質かも、出演決めたらきっちりだ。しかし、その伊東を主役として立てるために、演出はあらゆる心遣いをする。はらはらしてる。それが伝わっちゃって減点だね。都知事松下由樹)の娘(栗崎奈緒大北怜花交互出演)にトラウマを植え付けてしまった魔法使いハナ・ホッター(伊東四朗)は、その過去をただすべく、少女の笑いを取り戻すべく、また魔法学校定時制一年生となって奮闘するのであった。

 前説の東貴博の鼻から下はまるでフジイ8段のようだったし、今回、なんといっても、渡辺正行の起用法が優れていた。序盤、なんでそんなに?と不審に思ったハナ・ホッターの行動が、思わぬ形で回収され、爆笑した。しかし。前回言った「メンバーの高齢化」に関しては、伊東四朗(86歳)の起用という奇手を打ってくるだけで、おへんじもらった感じがしないな。伊東四朗伊東四朗、あんたがたはあんたがたやん。ラサール石井の声が嗄れていた。60代、声をからしちゃダメ。若い人は育っているけど、もっとフィーチャーしないととてもじゃないが光が当たらん。いまの、これからの東京の軽演劇はどこにあるか、それはこの芝居のメンバーの頭の中だ。

 客演の松下由樹に瞠目した。びっくり。頭から足の先まで芝居が詰まっていて、ちょっと体をひねっただけできちんといい芝居が出てくる。思い切りのよい、果断な演技だ。

 けど、松下始めみんな、歌舞伎の見得を切るところがてんでだめだね、歌舞伎のパロディも、軽演劇の伝統やろ?