東京芸術劇場シアターイースト 『Dojo WIP 東京演劇道場ワーク・イン・プログレス』

 プロセスが大事、プロセスが大事っていうけれど、ま、本当にプロセスが大事だな、と、急速に悟った本日です。

 今日のワーク・イン・プログレスの中で一番見やすかったのは『淋しいおさかな』(演出・藤井千帆、演出補・鈴木麻美)だった。完成度が高く、表現に手あかがついてない。ああもしてやろう、こうもしてやろうというたくらみがない。これ、ものすごくいい話で、おさかなを尋ねる(淋しさを尋ねる)女の子が淋しくなるところでもちろん読者も観客も淋しくなるんだけど、Dojo版を見てると、「そこじゃなかった」。風(大重わたる、長南洸生、西原やすあき)、みすぼらしい犬(緒方敦)、月(西原やすあき)の表現がいい。淋しい。純粋で、足したり引いたりしない、ありのままの存在だ。月とか台詞の前に間なんか取っちゃいそうだけど、そんなことしない。シンプルだ。(これさ、ほめてもいるけどけなしてもいる。)淋しさに至るプロセスがよかったです。これって小中学生にも胸を張って見せられる。別役さんのたたずまいがあったね。最初の、大きな本の出し方がいまいち。

 ワーク・イン・プログレスだからか、どの話も前段がさっぱりわからん。『忘郷少女』(高畑裕太作・演出)もそう。私は松永治樹の身体性と、多分ダンサーであろう大野明香音の柔軟性に、「ゆ、夢の遊民社だああ‼!」となり、筋までわからんようになりました。ただ、長崎の石炭掘っていた人たちの話が全然絡んでないし労働者(高畑裕太)の腰が高すぎる。疲れてない。ここでよくわからなくなるのだ。作者たちにはあんまり戦争関係ないんじゃないかなあと思った次第。大野、インバル・ピントでみた少女(モラン・ミュラー)に動き似てる。似てるんだったら負けない。松永、眼鏡かけたら年を取れ。気持ちでいいから。そして「note」の更新しなよ。

 『御社のチャラ男』(上演台本、演出・上村聡)、これも前段がわからないため混乱した。チャラ男の概念が全く把握できず。たいへん詳しい相関図がついてて、話が面白そうなのに、「共有できなかった感」がすごいよ。入れませんでした。独立で上演したら?

 でたらめ言葉の『恋人たち』(演出・扇田拓也)(シェイクスピアの『夏の夜の夢』の、パックが恋人たちの瞼に惚れ薬を塗るところ)、最初の、「海外から来日した大物女優(田尻祥子)」と通訳(茂手木桜子)、そしてオーベロン(扇田拓也!)の仮面が、とてもそれっぽく、笑った。でたらめの外国語で演じるのに、なぜか滑舌が気になる。確信ありげにでたらめ言葉しゃべらなくちゃだめさー。特にライサンダー(小日向春平)。扇田拓也、このごろどうしてる?もっと仕事しろー。

 『    』(石村みか、小幡貴史企画)、サヘル・ローズが老婆のように年老いた眼で演じる。上出来。とか言っていいのかなとちょっと考えた。透明の部屋にも外にも紙ヒコーキが飛び、意味合いは花火と空襲のように異なる。私が子供のころ、花火大会はめったになかった。トラウマの人が多かったからではないかなあ。

 『石の夢-Reves d’objets-』 ダンサー(黒瀧保志)が舞台を一周する。モノハラ(物原)のような、骨の上のような、石の上のような乾いた足音。黒い服で手だけが目立つように仕組まれている。閉塞感を踊る。曲はバーバーのアダージオ。これさ、「手」が主題の踊りでしょ、有名なバーバーだと、ふと戦後すぐの時代の「モダンダンス」を連想してしまう。最後の、手が「何かを放る」とこまでがいかにも長い。右手が「何かを受け取った」か受け取らないかわからない、ってとこも明確でない。サスペンスフルでない。それを皆がかしこまってみているのが、すごく昔っぽいのかもだねー。

 面白くって退屈な、飲み会の狂乱が3度繰り返される『再生』(原案・多田淳之介、演出・李そじん、藤井颯太郎)。なんかさー、もう、今の若い人、「ばかおどり」ってできないのな。「ぶざま」ってとこからとても遠い。しかし私には、この状況が、「ぶざま」を求めてリフレインしているように思えた。からだにすっかりビートが侵入している人々は、どうしてもかっこよく踊ってしまい、なかなかなりふり構わない姿が体現できない。ベージュのスカート(透ける)の女が、一番趣旨がわかってる。ワインカラーのレギンスの女が二回目に踊るとこでもう、なんかわたし涙がわいてたけども、出てた人、「あわれ」「かっこわるい」「ぎりぎり」についてもっとよく考えたほうがいいよ。そして演出は、この人たちのため「だけ」に、考える必要がある。2006年、古いよ。

そうだ、開幕と同時に始まった、「女子高生」の身体とイメージをなぞるダンス(演出・振付・手代木花野)、非常によく稽古されている。男のようにも女のようにも見える青年が踊るのは、「ぶれ」と「ずれ」を生んでいいが、今これ、おもしろいのかな?意味ある?女子高生を通り過ぎて長い女たちも加わっているようだったが、釈然としなかったです。