世田谷パブリックシアター 『メアリ・スチュアート』

 森新太郎演出で、がっつり稽古しましたという3時間15分。若い三浦涼介(=モーティマー)に、はっきりその効果が見て取れる。三浦の声は伸び、身ごなしは軽い。カンパニーの中で、一番いい声が出ていたと思う。だが、最初にメアリ・スチュアート長谷川京子)と対話するところは、いわば、台詞による求愛行動、声でする情事なので、そのように盛り上げてほしい。そして後半、激しく感情的になりはじめるとこがちょっと大げさ。

 長谷川京子は、柄がメアリ・スチュアートそのものだ。彼女も森演出でがんがん刈り込まれて女王らしい外見を整え、とても美しい。声は低く、気品もある。しかし、腹筋に問題があるのか、すぐ息が切れ、台詞を続けて言うことができない。「気品あるように台詞をいう」よう気を付けているが、台詞の中身まで注意が届いていない。

 吉田栄作(=レスター伯)は遠慮がちに見える。自分の台詞、自分のシーンになったらもっと楽しんでやってほしい。

 メアリと乳母ハンナ(鷲尾真知子)の冒頭シーン、舞台は暗く、わずかな光しか二人には届かない。それがゆらめく蝋燭を思わせる。ポーレット(山本享)が客席中央の階段から上がってくると、背中に後続の人物の黒い影が揺れ、この芝居がこの世にあたるいろんな光と影――そして闇――を扱っていることがわかる。

 「この手で署名する」などというエリザベス(シルビア・グラブ)の手は華奢で小さく、男たちに祀り上げられていいようにされている二人の女、という考えが頭を掠めるが、シルビア・グラブの芝居はそれを越えてくる。眩く輝く権力の孤独について考えた。顔を白く塗り、赤く唇を彩るという一見無表情に見えそうなメイクだが、とてもカラフルな演技だった。玲央バルトナー、切迫した台詞言う時、歩数もちゃんと勘定に入れないとだめだよ。