Bunkamuraシアターコクーン COCOON PRODUCTION 2022 +CUBE 25th PRESENTS,2022『世界は笑う』

 舞台端にどーんと掛けられた大きな時計の時間が、観客の時間と同期する。KERA、時間を融かしたのであった。

 昭和三十年代、笑いの劇団三角座の、台本を配って徹夜で稽古を始めるまでの、3、40分がぴったりこちらに貼りついてくる。そして、地方公演の長野の旅館では、もう時計すらもなく、「今、ここ」で起きるあれこれの劇的な成り行きを、「混ざった時間」の中で目撃することになる。飽きないねー。次から次に現れる人物は、たまたまそこを通りかかった風に見え、台詞は自然で、わざとらしさはないのだ。だーけーどー。やっぱさー、「今偶然通った人」は、緊密な台詞は喋らないよね、そこがいくらか、間が抜けて見え、キャストの技倆にずぅんと重くのしかかってくる。冒頭の撫子(伊藤沙莉)が誰かを探すように登場し、それを兄の大和錦(勝地涼)が追いかけてくるシーンは、今日は明らかに勝地が上ずっていた。あのね、田舎から弟助造(千葉雄大)を頼って上京してきた彦造(瀬戸康史)が、『世界は笑う』の若いキャストの中で一歩先んじているのは、瀬戸の踵から、繊(ほそ)い繊い根が生えて、舞台面で身体が安定しているからだ。(ほんのちょっとのリードだよ、まだ根がほそいもん)千葉、勝地、伊藤、踵つるっとしてるよ。伊藤の「わたしもうわかりません」は、撫子でなく、伊藤がよくわからないのが感じられる。この人、最後くらっと転身するよね、その前段だって考えてもらいたい。ネジ子の犬山イヌコ、いつもより前に出る役作りですごくいい、トーキー(ラサール石井)とのやりとりすばらしかった、けど、二人ともあんまりたっぷりやらないで。山内圭哉の芝居の下支えが光っていて、対話する相手がよく見える。初子(松雪泰子)、重大な役なのに、すらっと去るね、さいごの大倉孝二との対話もっと深く。