THEATRE1010 『風が強く吹いている』

 加速。「(略)…その時、自分の目に周囲はどう映り、自分の肉体はどれだけ血液を沸騰させるのか。なんとしても未知の世界を体感したかった。」

 「走(かける)は自分が、相手との間合いを詰めようとしていることを感じていた。海中に超音波を投げかけて、その反射で魚影を探ろうとでもいうように。」これ原作の最初の方。のろいね。ゆるい。でもここ、わざとなの。箱根駅伝に、じりじり近づいて行って、足どりが早くなり、うしろの足が地面を蹴り、体が浮き、前の足で衝撃を受け止める、その繰り返しがだんだんと速度をあげる。「箱根駅伝」を追いかけ、間合いを詰め、後姿を射程に捉え、抜き去り、胸でテープを切る。その過程を小説でやってる気がする。それを忠実に写し取ったのが、今日の芝居だったのかなあ。もー、前半ののろさ、ゆるさが、尋常じゃない。マイクを通した声は身体性との係わりがごく薄いアニメ調であり、居並ぶうつくしい男の人たちは、「ただ立ってる」のである。演劇として全く映えない会話は原作から採られていて、変えようとしていない。加速との対比を見せる一幕は、観客にとってめっちゃ辛くなってる。もっと脚本練ってほしい。これだったら、朗読劇でいいやん。ところが、二幕になると別人みたいなのだ芝居が。後半、役者はほぼ走ってる(その場駆け足)。抜きつ抜かれつのレースはリアルで(特に抜かれる俳優たちの躰が迫真)、主人公らの表情は真率で、激しい動きの中から絞り出される告白はピュアだ。「その場駆け足」なので、足は真下に降り、前に伸びるストライドがみられないのが、ちょっと残念。王子(阿部快征)のへなへなフォームがキマっていてよかった。塚田僚一、前に声出てる、ときどき千葉繁(声優)みたいだったよ、あとあんまりねっとり台詞言わないで。走(矢部昌暉)、寒風かんぷうで、さむかぜではありません。