アップリンク吉祥寺 『コンペティション』

 おっそろしく自分「に」ピントの合った人たちが、自分「の」ピントを合わせるべく、戦う映画である。大金持ちの老人スアレス(ホセ・ルイス・ゴメス)は、自分の名を後世に残すため、映画制作を思い立つ。いま旬の映画監督ローラ(ペネロペ・クルス)に監督を依頼し、ノーベル賞作家の作品の映画化権を取る。演技派俳優イバン(オスカル・マルティネス)、そしてハリウッド俳優フェリックス(アントニオ・バンデラス)の出演が決まり、豪壮なホールで、カメラのないリハーサルが始まる。まずねー、映像がかっちり安定していて、工夫されてて、見飽きない。イバンとフェリックスが画面の左右に配置され、読み合わせする二人を等分に見渡すことができる。かと思えばものすんごいアップの切り返しがあり、それから、明確に、観客に「気づかせるように」カメラのフォーカスが変えられて、ぼんやり映る秘書の男がしゃべるにつれはっきり輪郭を現わす。遠景の二人のアシスタントが、ピントの合った世界に歩み入ってくる。二枚の鏡に、顔が映されたりする。これさ、「映画じゃ画面で全部にピントが合うことはないんですよ」というアナウンスだ。登場人物はピントを奪い合う。誰がフォーカスされるのか。それは私だ。

ただし、話はだるい。あー、こんな話、どこかで観たよなと思い、残念だったよ。アントニオ・バンデラスも、オスカル・マルティネスも、監督の破天荒なメソッドにイラついてく「過程」が描写されず、果物に指を突っ込むほどのフラストレーション、けんかになるほどのフラストレーションが実感できないねー。ペネロペ・クルスの演技には、ローラの厳しい取捨選択のピントがびしっと表現されているけど、それも狂熱的ではない。「終わらない映画」について、最後にカメラを支配するローラ――ペネロペ・クルスが言及する。それは現実のことだろうね。でもさ、私たち一般観客は映画の激しい奪い合いを、どこにあてはめたらいいのか、ピントが皆目わからないのでした。