duo MUSIC EXCHANGE 『SPARKS』

 Take Me For A Ride のオーケストレーションの(?)カラオケ(?)に乗って、バンドのメンバー、ロン・メール、最後にラッセル・メールが現れる。テイクミー、テイクミー、テイクミ、テイクミ、テイクミ、フォーアラーイド。ここ数日、スパークス聴きっぱなしだったせいで、現れたロンとラッセルが、まぼろしみたい。ロンはスーツにネクタイで、シャツがとても今風の襟、上手の前方に座る。彼の手元は聴衆の頭で見えないので、真面目らしく正面を向いている上半身と私たちは正対する。うー。演劇的。にこりともしない。ラッセルは下手側に立ち、黒シャツに、上半分が赤、下半分が黒のスーツ。赤い襟に黒い花の飾りがついている。「So,Tokyo,行きましょ」。映画『アネット』のSo May We Startだ。ラッセルのボーカルは、調子いいような気がするけど、バックのファルセット(?)が、いまいちかなあ。二曲目は新譜のThe Girl Is Crying In Her Latteだった。「ラテ・マネー」って言葉あるけど、これ、待ちぼうけの歌なのかな。ラッセルは英語歌詞をすこしだけ観客に歌ってほしかった感じだ。(あれ?)ってなってたね。すみません。けど彼はすぐ切り替えていた。判断早い。いくつか歌ってこんばんはトウキョウとあいさつし、二枚目の古いアルバムからと断って、Beaver O’lindy。アコーディオンぽい懐古的曲調と、ロックとの往還だ。「I’m the girl in your head but the boy in your bed」という、皮肉めいた歌なのだ。boyとgirlの往還でもあるんだね。7曲目のIt Doesn’t Have To Be That Wayまで来て、ここまでいい感じに来たボーカルが、ちょっと息切れした。低音は外れ、高音は伴奏に溶けちゃってる。でも最後のリフレインの高音は盛り返した。日本語でありがとうというラッセル。「う」が下がっているので、すごくノーブルに聞こえる。

 9曲目のShopping Mall Of Love ではロンが立ち上がって(!)歌詞を語る。かっこいい。演劇ぽい。的確に音楽で「yeah」というのに、すごくずらしているように「見える」。サーチライトがあっちやこっちを照らしているみたいだった。

 後半、曲名をメモするのが急速に嫌になる。どうでもいいじゃないか。どれも好きな曲なのだ。ラッセルはテノール歌手に女声を足したような声だ。そして手を抜かない。彼が右手を挙げて振ると、観客の手も上がってそよそよ揺れる。ロンが後半で(The Number One Song In Heaven)踊るまで、ロンは「陰」の極、ラッセルは「陽」の極のように見えた。Music That You Can Dance Toで、一曲目でいかがなものかなあと思ったコーラスも持ち直した。

 This Town Ain’t Big Enough For Both Of Usの、「heart beat, increasing heart beat」のとこ、ラッセルはグーで胸をたたくしぐさをするんだな、家に帰って家族に教えなくちゃと思う。アンコールでは、My Baby’s Taking Me Homeを演奏した。これ、「かなしみ」「おわかれ」「よろこび」「怖いとこ」「天国」などいろんなニュアンスがあるんだね。この場に同期していることが幸せ。ラッセルに合わせて手を振りながら、そんなこと思った。