I'M A SHOW  朗読劇『あの空を。』

 2020年、中止になった夏の甲子園——全国野球大会と、その大会を目指していた3人の高校生のその後を語る。

 語り手と37歳独身のOBを升毅が、マネージャーのサワムラ(テルテル)を安井一真、ピッチャーヒロトを小澤雄大、苦い転落を味わうマツオを加藤大悟が演じた。安井はとろんとした化繊の白いドレスシャツ、小澤は白い綿シャツ、加藤は裾にカットワークの入った王子様のような白シャツを着ている。芝居の中盤を過ぎて、上手に座る加藤の右胸に、ぽっちり小さいうすあかの染みができた。あとで言ってたけど、気合が入るあまり、鼻血が出ちゃったんだって。でもさあ、この芝居——いや、朗読劇か―、一日しか稽古しなかったらしいね。それを聞いて、観客の私のほうが鼻血でそうになった。えー?ははー。なるほどね?それで七千円とるの?ロビーには届けられた花の上等そうな香りが漂い、これが普段私が見に行くやつじゃなくて、いわゆる、2,5次元と呼ばれるくくりのものだということが段々にわかる。2,5次元の人は、真面目で、芝居に没頭する。ファンサービスも怠りない、っていう印象。ただねー。与えられたものを真剣に消化するばかりで、「疑う」ってことがないんだなー。2,5次元のひとって、強いものに巻き付いて咲く花みたい。この芝居の演技見て、そう思う。この脚本の作家さんも同じ。権力を信じ、そして音楽センスは20年古い。

 さすがに稽古一日ではベテランの升毅にもいい間違いが多い。「お題」を出しての物まねもゆるゆるのへなへなだ。やり損なったらどうしようという緊張がない。あのドラえもんとか、小劇場だったら許されない。舞台に掛けることもあり得ないくらいのだめかげんだ。かろうじて加藤の玉置浩二が似ていたぐらいだったよねえ。もう一度言う。ギャグ、全く面白くなかった。ねそべっていうとことか言語道断。スクワットも、やるならちゃんとやれ。「喉の奥がツンとして」ってどういう表現?東北弁が無理やりだった。芝居が始まる寸前まで、しんぱいそうに手鏡を覗いている可憐な観客たちは許しても、わたしはぜったいゆるさんよ。ステージに立つことに、もっと緊張と惧れを持て。