彩の国さいたま芸術劇場大ホール さいたまゴールド・シアター最終公演『水の駅』

 イキテイル水。すべてが、暗く、幾何学的で、しんと静まり返っているのに、舞台の真ん中にある蛇口から流れ出る水だけが、細く光りながら身をよじって落ち、華奢な銀の鎖のようだ。立てる音は意外に低く、川や春の雪解け水をすぐ思い出させる。

 あのー、最初に少女(石川佳代)が走って登場するあたりで、「失われた」という言葉がすぐ胸に来て、(うっ)と涙がこみあげる。老女の演じる少女って、「もう帰ってこない時」の哀しみがあるよね。少女は水をじっと見る。(もっとよく見て!)これから「水」は、通りかかる人々が欲しくて欲しくてたまらないもの――母の愛や恋人との愛、セックス――、そして奪い合うことそれ自体を表わしてゆくのだ。ここに顕れる男たちの愛(男a=竹居正武、男b=小田豊)、男女の愛(ロープを引く夫=北澤雅章、乳母車を押す妻=百元夏繪)、女たちの愛(女a=林田惠子、女b=上村正子)は、とても繊細で綺麗。洗練されている。ゴールドシアターの日々の習練、演劇に対する清らかな姿勢を見ることができる。黒いフリルのついたパラソルで陽(現実)を避(よ)ける女(日傘を持つ女=田村律子)の怖さと狂気が前段にあって、女a、bの上に(Gold)の陽が昇り、全て受け容れて生きようとするところが圧巻で素晴らしい。ハードボイルド。若い女(井上向日葵)が死ぬことで、女たちは「年を取ることができた」。と、とてもいい話だったんだけど、セックスを表わすシーンが三つもあるので、最後吃驚しない。びっくりさせてー。演出のクレッシェンドが全然効いてない。あとこれ、スローモーションじゃないよね…。まっすぐ垂直に足の上にしゃがみ込み、また立ち上がる、それがどれだけ大変かわかる。でも歩くとこも頑張ってほしい。「争い」にフォーカスするとこ演出鈍い。ここ、きれ味悪いよ杉原邦生。