吉祥寺シアター 『ハイ・ライフ』

撚れてかすれる自分の声を逆手にとって、東出昌大は「そんな声をしてるやつ」を舞台上に作り出そうとする。いいね、いいと思う、そろそろそんなことに挑戦してもいい頃さー。ディック(東出昌大)は銀行強盗を計画して、凶暴なバグ(阿部亮平)と、クレジットカードの少額詐取をちびちびやっているドニー(尾上寛之)、モルヒネ中毒なのにぱりっとして爽やかなビリー(小日向星一)を仲間に引き入れる。皆ジャンキーで、常に薬をうってハイな暮らしであり、そしていつか、一生金に困らないよい生活—ハイ・ライフを送れるようにと灼けつくように願っていた。

これ、『レザボア・ドッグス』が二年前、『パルプ・フィクション』と同じ年に書かれているんだね。なら、車のなかの切羽詰まった状況での可笑しみっていうのは大変大事な要素のはず。ここの交通整理がも一つ。これはね、東出の全体の声量が足りず、場を統括できてないからだね。学級崩壊した小学一年生のクラスをなんとかまとめる先生のようでないと、面白くない。10分辛抱してくれと頼む必死な心、バグを止められないとわかったときのあきらめたような気持ち、「全部一本の線路に乗せて」、撚れていようがかすれ声だろうがばーんとでかくやらなきゃ笑えない。声量をあげることが喫緊の課題ですね。

 バグは登場してからしばらくの、世間話の腰が据わらないよ、凶暴ゆえに一目置かれている男なんだから、いつも人に話を聞いてもらえてるはずだ。ドニーは好演しているが、ビリーについて感想を述べるところが弱い。ここの台詞たいせつ。ここが浅いと、戯曲全部が「ああ、タランティーノの真似だねー」で終わってしまう。みんなでラリッて昏倒する前半も、「ラリッてみせる」のじゃダメ、自分に没入していかないとさー。怖いシーンがないと、車の中のシーンが引き立たない。

 小日向星一、勇気ある。客と絡むのは怖いものだ。健闘してるけど、あとから見れば、「ああ、あれが、」絶望だったんだねってとこがあればいいね。今日東出台詞忘れた、だから芝居の芯がちょっとぐだぐだ、あと見に来る関係者、15分も遅刻しちゃダメ。