シアタークリエ KERACROSS 5 『骨と軽蔑』

ものすっごい切れ味、と思うのだ。刀鍛冶の打った包丁で、牡蠣をまっぷたつに切ったみたいな、ぬるくない業物の幕切れだよ。すぐそばを砲弾の飛び交う戦争(自国の戦争)、こどもが駆り出される戦争、その中で、金と権力を手にした女たちが、厳しく辛(から)い世界を血も涙もなく主導する。ふーん、そういうディストピアかい。でも、金と権力を手にした男たちの現実が、より一層ディストピアなのに、「母」のこわさ、辛(から)さ(男女問わず万人が経験済み)をクローズアップするなんて、まあちょっとアンフェアかな。「女の人嫌い」、「ありがち」だ。

 鋭い切れ味で幕を下ろすためか、芝居の要素は意外とラフだ。工業製品にする鋼材を大体の長さに切っておく、「ラフカット」で束ねられている。たとえば召使ネネ(犬山イヌコ)の掛けるテーブルクロスは少し歪んでいるし、マーゴ(宮沢りえ)とドミー(鈴木杏)姉妹の「その前から」を争う論争は、仕上がりが甘い。ここ、宮沢りえがちゃんと今言ってる言葉に集中して、「その前」に執着しないとつまんない。二幕につながらない。歩き方は自信たっぷりなのに、実は不安そうなのが編集者ミロンガ(堀内敬子)とのやり取りから知れる。峯村リエの母グルカは、兵士を見送る声が兵士にかからないように泣く。これ、ラフなのか未達成なのか判別つきにくいよねー。客入れの音楽までササラのように割れており、不揃い仕上げで、KERA、断ち切る気まんまんだよ。

 芝居のセットは、庭(外ー周縁)と室内(内—中心)が全く等しく重なっている。外部の一般の人々と特権を持ったものが等分であり、平等であるといっているのだろう。戦争と平和も等分に重なり合っているのかも。乱れた文字で走り書きされた手紙が、屋敷の人々に、二重の世界の恐怖や不幸がいかにやすやすと近寄ってくるかを知らせる。外部がいきなり内部となる。その境遇はわたしたちにも、とてもとても近いものなのだ。「日比谷の人たち」と話しかけてくる犬山が、ここにも通路を作っているんだから。水川あさみ、秘書のソフィー、面白い役だ。引きがね(?)を引いたか引かないかわからない、の箇所、もっと無神経にやって、後半に効いてこないもん。