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パルコ劇場 『母に欲す』

 客席にあかあかとアンバーの照明が当たる。ドームの中に入ったみたいだ。

 胎内を連想。アンビエントな撚れる音楽が大きくなり、明かりが消える。緊張が高まる。

 (なんか生まれるの?)

 と、期待したのもつかの間、一人暮らしを凝縮した部屋(洗わない食器つるしたハンガー半開きのビニールロッカー)に、男(祐一=峯田和伸)が、パンツがずり下がった姿で寝ている。起きない。ケータイの呼び出し音。身じろぎする。起きない。すこし覚醒。そのあともう一度意識が遠のいていくのかと思った。それもいいな、このまま見ていたい。まどろむ動作がいちいち繊細で、今日とつながる、舞台にない昨日がそこにある。結局祐一は、母の急死の知らせを受けて、アパートを飛び出していく。葬式に間に合わなかった祐一をなじる弟隆司(池松壮亮)、悲しみのあまり酒を飲みすぎる父(田口トモロヲ)、三者三様に母の死を悼む。しかし、四十九日が済むと、父が一人の女性を母として家に連れてきた。新しい母智子(片岡礼子)に戸惑う息子たち。座敷、リビング、台所、寝室、子供部屋、セットは祐一の実家の部屋をたぶんすべて見せているもの。とりわけ中央の台所は、亡くなった母の気配が濃厚。悲しみを見守っている。そこは母の胎内なのだ。家族は智子を母に育てようとし始める。母って何?永遠に求めるものってこと?三人は、母は好きだけど女は好きじゃないみたい。母とエロスが接地することで、世界が裏返り、祐一は「うまれた」ようにも見えたし、永遠に胎内にとどまっているようにも見えた。この世は胎内?それとも?自分はいったい、生まれているのかいないのか、しばし客席で考えてしまいました。

 智子、説明の少ないキャラクターだが片岡礼子が精一杯自然に演じていた。