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本多劇場プロデュース 『牡丹灯籠』志の輔らくご in 下北沢

  圓朝の怪談。と聞くが早いか、頭の中を、大きな活字で、「新三郎様」という文字や、「豊志賀の死」という文字が明滅する。『牡丹灯籠』と『真景累ケ淵』がごっちゃごちゃ。とにかく、こわいと思っている自分。すーっと場内の明かりが落ち、息を詰めるようにして開演を待った。

 ホリゾントに青空。下手に縁台。のん気な感じに志の輔が登場した。うちわを持っている。肩透かし。こわくない。北陸新幹線の話をする。舞台中央にものすごく大きなパネルが下りてくる。『牡丹灯籠』人物相関図だ。志の輔が筋を説明したり、ちょっと登場人物の会話を挿んだりしながら、名前のパネルを一枚一枚貼っていく。全部口演すると30時間かかるという話が、手際よくまとめられる。

 とんとんとん かんかんかん

 みるみる志の輔が家を建てる。骨組みが見えてくる。現代工法だなー。後妻のお国の悪だくみなどは強調されてくっきりする。「悪心発(おこ)りて」って感じ。パネルが埋まると、15分の休憩。高座を設えた落語が始まる。今までの骨組みに肉が付き、暗い夜に家の軒があるしっとりした景色を感じる。萩原新三郎のもとを旗本の娘お露と女中お米が訪ねてくる。新三郎の世話をする伴蔵おみね夫婦が、お札を剥がす顛末。金を手にした二人の心の齟齬。暴(にわ)かに兆す伴蔵の業。伴蔵はもっと怖い人になってもよかった。伴蔵、おみね、町医者志丈、久蔵などがよい。お国の名前が登場すると、家の柱と柱が、赤い因縁で結ばれたように見える。志の輔は、前半はテレビで見かけるいつもの顔なのだが、伴蔵の心中を語るうちにその顔が拭ったように消えて、見知らぬ人になる。大昔に芝居で見た牡丹燈籠は、実はこんな結構だったんだとようやく分かった。結構でした。