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上野の森美術館ギャラリー 『女たちの絹絵』

 品。グエン・ファン・チャン(阮藩正 1892―1984)の画には気品があり、それが凡百のファンシーでセンチメンタルな絵、プロパガンダとなるかもしれない宣伝美術から彼を遠ざけている。

 その気品の中には、なにか言いがたい悲しさみたいなものがひっそり籠っていて、それが絹の上に絵の具で描くという失われやすい繊細な技法とまじりあい、グエン・ファン・チャンの画に私たちが魅かれるもととなっているのだ。

 彼の画には、美しいベトナム女性が登場する。その美しさは、選別された美しさではない。青春を過ぎた人間が若い女を見ると感じる眩しさ、「女の子はみんなかわいいよねー」というのに似た、若さの輝きを持った女たちである。

 『籾篩(もみふるい)』という絵には、立ち姿の二人の女性が描かれ、向かって左の女性が今かごの籾をさらさらと地面に置いた大かごにあけているところである。斜め後ろから風が吹いていて、その風が女性の後れ毛をそよがせ、もみ殻を右手前の遠くへ飛ばしている。女性の傾けるかごにはたっぷりと籾が入っていて、作柄の豊かさを暗示する。向かって右の女性は続いて籾を振るおうと、かごを持って待っている。左の女性に話しかけている、その明るい声が、すがしい目付きから聞きとれる。

 この絵は高温湿潤なベトナムの気候、長く続いた戦火、絹絵の儚さのために、とても傷んでいた。それを修復する作業は日本で行われている。裏打ちを丁寧にはがして張りなおし、彩色を細かい剥落に施し、生き返らせる。まるで戦争の心の傷に薬を塗り、やさしく癒しているように見えた。修復を待っている絵はまだいくつもあり、事務局(ベトナム絹絵保存修復プロジェクト)が活動している。