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東京芸術劇場 RooTS Vol.04 『あの大鴉、さえも』

 「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」(1915-23)。

書いてるだけで美術通な気分になってくるこのデュシャンの作品の通称は、≪大ガラス≫という。写真でちょっと見ただけでも、何がなんだかわからない。なんか、大きなガラス板。そして、器械。デュシャンの制作メモ(それを作品として売ったんだって)を基に、研究者や鑑賞者が云うには(そして私が思うには)、独身者たちと花嫁の、すれ違うセクシャルなたかまりのようなものかなあ。

 竹内銃一郎の『あの大鴉、さえも』は、デュシャンを下敷きにした1980年発表の芝居だ。三人の男が大きなガラスを運んでいる。今回の上演では、男たちを女たちが演じるという変更が加えられた。

 わずかにはすかいに置かれた二面の大きな壁。グレー。上手の高い所になぜか蛇口、その「なぜか」を拒絶するように、きびしく、緊張を持って光っている。中央よりの手の届くところにドアノブ(?)、下手の低い場所にも蛇口と、その下にバケツ。舞台前に車輪が倒しておいてある。セットの外にも見えるところにチェス盤の置かれたデスク。チェス?デュシャンはチェスが大好き。停まっている三人の独身者たちは、チェスの一手だったのか。小林聡美が駒を水のコップに入れて回すが、あれは思考と情動を混ぜるという意味かな。

 登場した3人は意外に小さめのガラスを携えていて、180×120と説明される。このガラスが、小さくなったり大きくなったり、違う手法で表わされたりする。とても洒落ているが、「伸び縮み感」、連続性が薄い。欲望を暗示するには、それが不可欠ではないかなあ。それとももっと違う、不条理な何かについて言っていたのだろうか。中には「ゴドー」を待つ二人まで組み込まれ、それが≪大ガラス≫の主題、「遅延」を噛むという面白い構成になっている。藤田桃子がガラスを手玉に取るシーンがよかった。