THEATRE1010 千住落語会vol.17 『春風亭一之輔 独演会 ~重陽に笑み栄ゆ~』

 矢鱈縞っていうのか、茶や草色の縞の、狭い広いが思い思いになっている、落語にうってつけの渋い緞帳がかかってる。

 ひと席おきにお客が座り、扇子をつかう男の人、女の人がちらちらし、ゆっくり又はせわしく風を送る。今日も暑い。もう9月9日、重陽節句だっていうのにね。幕あいた。

 開口一番、と下手のめくりに書いてあり、その後ろを通って春風亭貫いちが現れる。とても足早、懐に何か入れながら、あれはなんだろ、手ぬぐいかな。一之輔の四番弟子だって。いろいろ急いでいるから汗が出て、師匠をフキゲンに(貫いちのポロシャツが汗まみれで、ってあとで一之輔がいってた)させちゃうんじゃないのかなあ。ゆっくりでいいよ。一つ深呼吸してから何でもやればいいのに。と思う間もさっさっさと咄は始まる。『桃太郎』。むかしむかし。むかしむかしっていつ?あるところに。あるところってどこ?眠くない金坊とおとっつぁんの会話がはじまった。話ははきはきしてる。声が大きく、斟酌しない、この斟酌しない所が、いいところでもあり弱点でもあるのかな。桃太郎、ちょっと苦手。「教科書」とか「徳目」とかの匂いがするもん。「いま」の金坊が、「むかしむかし」と「あるところ」をすごく講釈するところで、7文字を一章費やして語る本のことを思いだしました。貫いちは「だんだん」と「どんどん」がいっしょくたになった発音で話を進め(斟酌せず)、オチ(サゲ?)まで一直線に話し終えた。「昔」の金坊が怖い話は嫌だという時、目を押さえてるのがかわいかったよ。

 貫いちが高座の座布団をきちっと丁寧に整え、めくりをめくる。拍手が起き、春風亭一之輔がまだまだ目に涼しく映る薄い緑の着物と黄色の羽織で高座に上がる。坊主頭だ。あの、私、21人抜きで真打になったというから、義経の八艘とびとか連想しちゃって、小柄な目から鼻に抜けタイプを考えてたのに、勝村政信をとてもごつくしたような人だった。どっちかといえば、弁慶かな。フェイスシールドや劇場の名前やPCR検査やゲリラ豪雨の話をする。話をしながら可笑しいことを言うと、自分もおかしそうに笑うところが印象的だった。なんかさわやか。視力のいい人の例えでニカウさん(アフリカ・マサイ族の)の名前を二回だし、(あれ)と手元の控えに「ニカウさん二回」と書いたら、書き終わらぬうちに「令和二年 ニカウさん二回言いました」といっていた。

 噺にはいる時(『あくび指南』)、むかしはおけいこ事という物を…と話し始めるのに、もうすでにキレイなおっしょさんが言葉の端々にちらっと覗いてる。ありなの?なしじゃない?まずいね。

 でも私吃驚した。もともとの落語、っていうか下図が見えない。勿論古典の線は(鉛筆書きで)あるわけなんだけど、その細い線の上を太い筆で辿って勢いよく「いま」話す。八五郎が容子作るのも、江戸風であり現代の自撮り風であり、かっこいい映画風でもある。「でぇくです」っていうのは古典だが、「うち…建ててます」は寡黙なスターのよう。

 欠神斎長息(?当て字です)と八五郎のやり取りは、(わたしはスポーツクラブのインストラクターと運動神経ゼロの人のことを思い出し、)あくびを習う奇妙な習い事に八五郎が「斬新!」と目を輝かせるのがふっと風が入ったように、新しい。もはや下図の線というより下図の点て感じ。点から点へ一気呵成に線がひかれる。元ネタ見えない。生きてる。勢いある。

 今日の座布団座りにくそうだった。貫いちも一之輔も、前方下手寄りに微かに傾いていた。上手からみてるとよくわかる。

 仲入りのあとは『笠碁』、よかったけど、盤面みるとき、もっとその場で考えた方がいいような。「今起きてること」が薄い。

 一之輔はさらりとやってたが(さらりが大切)、オチ(さげ?)があるのにそこはかとなく人情話でした。