Bunkamura シアターコクーン COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』

 古代と未来の双方から掘り進めたトンネルが、薄い刃物一枚の厚さに近づき、ふと入れ替わる、スリリングな戯曲と、むきだしの舞台にいびつな白い柱を立てて、荒野のようで墓のようで、内側のようで外側のように見せる演出は、すごく面白い。安全。安心。でもこれ、始まって四日目?台詞と台詞の間が空き、演技らしい演技をするのは、ヒイバアの白石加代子がヒメ女(葵ワカナ)を見限るくだりや、狂王(片岡亀蔵)が遠眼鏡を外して横目でにらむ表情くらい。片岡亀蔵、教授の台詞さ、相手の台詞の息が消えないうちに続けないと。とにかく間が長いので、台詞わすれた?(白石加代子)っておもうし、それぞれのいい芝居が、体操の個人種目みたいに見えてくる。また、ミズヲの成田凌、イマイチの柄本時生、ハンマーの山口航太は、声が体全部に共鳴していない。曇った声だ。音(おん)が喉で止まってるのだ。喉に力が入り、表情を作るために頭が緊張してるのでは。ミズヲの発声だと、一番場に適っているのは水を求める叫びで、一番うまくいっていないのは最後の台詞だよ。演出が序盤、ミズヲとヒメ女をスポットで抜く(恋!ってかんじの)ので話がはやい。けど、最後の台詞もすこしなんかあってもいいんじゃないのかな。ヒメ女巾いっぱいやってる、上出来。3回目の舞台が勝負。オズの大鶴佐助、カーンと気持ちよく声が出、体幹もしゅっとして粘りがある。ピンカートン財団のお嬢様タマキ(前田敦子)とのやり取りもいい。しかし、切嵌め細工が隙間なく合う感じに頑張れ。どちらも思いきりと発声が優れているが、一万円取る舞台で発声褒められるて。南果歩好演、息切れが心配。

 青年が舞台上に耳をつけ、気配を聴く。ニナガワ的に夜の匂いを感じ、内か外か、未来か過去か、倚って立つ自分の場所が、不意にわからなくなる。