東急シアターオーブ ミュージカル『オペラ座の怪人 ~ケン・ヒル版~』

脳みそが、「PHAAANTOM OF THE OPERA IS THERE~」漬けになるほど聴いてきたら、全くの別物だったこの驚きよ。

 あっちが年嵩の男、年若の男、そして若い娘の三角関係を描くものだとすると、こちらは全てが慎ましくベールをかぶっている。そして、「あれ」がちょっと寸の詰まった豪華劇場なら、「これ」は木製の、細部に凝った古風な公会堂って感じに見える。

 ガストン・ルルーの原作に一番忠実に作られているという触れ込みだけど、要所要所で、あっそうだったねーと小説の記憶がよみがえるのだった。

 前半、皆硬くて、台詞と台詞の間が空きがちで、前の台詞の音(おん)を受けて発語するというとこが手薄。やりとりに隙間がある。しかし、有名オペラに歌詞をはめ込んだ歌の歌唱が始まると、(…まあそれはいいか。)と思ってしまう。だってクリスティーン(タイラ・アレクサンダー)すごいもん。二幕の「Somewhere Above The Sun Shines Bright」(ヴェルディ『海賊』 「私の頭から暗い考えを」)とか、圧巻。怪人から仮面を引きはがす寸前の歌唱も素晴らしかった。動画サイトの投稿からプロになった人らしい。一方、携帯電話の販売員から一躍有名歌手となったポール・ポッツは、うつくしい声のまっすぐな強さが半端ない。いい声だった。しかし、歌いまわしはどうなのかなあ。(あと、特鼻褌みたいな錦のまわしだけど、着こなさなきゃ駄目さ。自信持ってないと笑えない。)ここ、伸びしろやん。というのも、怪人を演じたベン・フォスターが、終演後、『ジーザスクライスト・スーパースター』のなかの「ゲッセマネ」をうたったのだが、ほとんど声を使わなかった。ちょっとー、大御所老人歌手みたいだよー、と思ったけど、もー、テクニックが多彩。いくらでもやれる。どんなふうにでも声出せる。でもいまはあんまり声出さないプレスリーみたいな感じだったよ。欲を言えばびしっと歌ってほしかったけどね。あとポール・ポッツ、たくさん友達作りなよ。しんぱい。ファントムだってお墓参りしてくれる友達いるらしいよ。