渋谷TOHO 『――空海―― KU-KAI 美しき王妃の謎』

 陳凱歌が、精密になってる!と震撼するのであった。とても高度な映画。例えて言うなら、一つ一つの関係が地図のように厳密に写し取られ、「美しき王妃の謎」を構成する分図、たがいの透視図となって、伝奇ロマンを大きく、きらびやかに展開させる。

 日本から留学生として密教を学ぶためにやってきた僧空海染谷将太)は、皇帝の死を目の当たりにして疑問を持ち、役人で詩人の白楽天(ホアン・シュアン)とともに、謎に迫っていく。

 女たちは美しく、作られた長安の街は観客の自分もどこかに紛れ込めるような、大きくて、騒がしくて、詩情漂うすばらしい都だった。夕暮れ時の暗い妓楼に灯がともるところなど、心を持っていかれる。俳優たちも、「チェン・カイコーの作品だ」と気合が入っててしっかり演じ切る。

 ペン画で水彩でCGで、地図が象られ、つなげられ、拡がっていく。控えめな、渋い筆致が一貫している。

 猫(声・六平直政)に祟られる陳雲樵(チン・ハオ)と妻春琴(キティ・チャン)の下りは、さながら帳に描かれているようで、その奥、その向こうに美女楊貴妃(チャン・ロンロン)がちらりと覗く。

 ただなー。飛行地図になりそうなくらい細緻な地図、重なり合う美しい地図はたくさんあるんだけど、手描きの、下手な略図、矢印が付いてて、子供のような字で「ココ」と書かれた(目的地は赤く塗られてる)簡単図がないんだよな。愛の核心のようなもの。稚拙で構わないようなものが。それがないと分図がつながらないよ。

 あと今回吹き替えだけど、めっちゃ遠慮してやってたイッセー尾形の皇帝(チャン・ルーイー)と、自分を出さずに演じた六角精児の李白(シン・バイチン)が凄く芝居巧く見えた。吹き替えってどうなの?胸の奥から声がしないと、気配が紙芝居っぽくならない?