本多劇場 『ピエタ』

 ヴァイオリン(向島ゆり子)、ヴァイオリン(会田桃子)、キーボード(江藤直子)の三つの組み合わせなのに、音が厳しく、弓は自在に弦の上を走り、鋭く深く鳴り、弾き手が思った通りの、思った以上の、いい音楽がうまれる。この『ピエタ』の音楽、よかった。劇伴でCDを「もっててもいいなー」って思ったの初めて。売ってないけどさ。確かに一曲目は「合ってなかった」。でもそこからのリカバリーすごかったね。子供時代の長くつらい習練、日々過ごす中でも欠かさないルーティーンの辛抱強さ、そんなのを感じ、「ピエタの娘たち」のヴァイオリン練習の月日を思わせて芝居を分厚くする。…んだけど、その肝心の芝居が薄い。初日だからかな、皆手足が縮こまっている。

セットはハーモニーの「舟」を連想する優しい曲線からなり、女たちには段差が少し大きめで、男の足を基準に作られた生きづらいこの世を象徴している。「ピエタ慈善院」で孤児として育ったエミーリア(小泉今日子)は、彼女たちに音楽を指導する先生(ヴィヴァルディ)亡き後、貴族の娘ヴェロニカ(石田ひかり)が裏に詩を走り書きした楽譜を頼まれて捜す。先生の残していった、先生とかかわりある女たちと会うことで、「男の目」に邪魔されない、曇りのない心からの緩やかなコミュニティを、エミーリアとともに観客は発見することになる。ヴェロニカだけどさ、この人字を書いたりする気持ちがありながら術もなく閉じ込められているわけでしょ。その悲鳴が台詞から聞こえない。台詞に悲鳴のポイント、あるよね?歌手として少し煮詰まった気持ちでいるジロー嬢(橋本朗子)、先生をひそかに愛していたその姉パオリーナ(広岡由里子)、二人の悲鳴も聞こえない。ジロー嬢、芝居するとき、いったん人の台詞聴いて。ずっと自分の呼吸でやっちゃダメ。高級娼婦のクラウディア(峯村リエ)、尊敬されさげすまれる複雑が現れてない。自嘲があってもいいのかも。小泉今日子、アナウンスとてもよかった。辛抱立役ですね。でも芝居にエミーリアの悲鳴(屈託)が見えない。一瞬でいいのに。

客席と正対する幕切れが気恥ずかしいけど、もっと工夫はないのかなと思います。