シアタークリエ 『家族モドキ』

私の席の周りからは鼻をすする音が聞こえ、忙しくハンカチが取り出され、終演後には思わずといった感じで立ち上がる人もいる。ねー。舞台に掛ける合格点の芝居って、せめてこのくらいじゃないとダメでしょう。

 一軒家に一人住む男高梨次郎(山口祐一郎)。彼は日本史の学者だ。妻はもう亡く、仲の悪い娘民子(大塚千弘)が突然帰ってくる。民子は妊娠している。民子の恋人木下渉(浦井健治)ははかばかしい説明をしない。そして彼のあとからやってきた女園江(保坂知寿)は民子の世話を実に熱心にするのであった。

 んー。どうしたかったのかなー田淵久美子はこの話を、と、しばし沈思黙考。この芝居は現代の日本の家族関係に切り込もうとしてるんだけど、話が現実の、ありがちな、よくある筋書き――家父長制の残滓——に回収されてしまう。人の言う、「爪痕が残せてない。」ってやつだ。たぶんね、保坂知寿が最後赤ん坊の名を呼ぶ妄執のストーリーにもできた、ありがちだけど。でもそうはしなかった。家族構築に失敗した次郎が、失敗を受け入れ、新しい家族に手を貸して新生させようとする。という微妙な、けれどもいい話に着地だよ。ちょっと無理だなあ。違和感ある。日本の現実まるごと肯定やん。

 山口祐一郎、台詞回しが単調。観客は、歌だけでなく、歌でない台詞の調子も聞いている。退屈させない。工夫して。しかし、「お食い初め」について語る時の躰の安定がはんぱなく(両足をすこし開いて立ち、腰の両脇に手を軽く当てただけ)、若い俳優さん一寸見てくださいって感じだった。保坂知寿にこの年長の看護師役はすごくあっていて、ステレオタイプでなく、生き生きしている。こうした年配女性のキャラクターがたくさん書かれることを希望します。浦井健治の役は、脚本がまずい。「影のなさ」は「影がない」という言葉で前半にもっとやりとりして示さないとねー。大塚千弘って歌上手いんだと途中で驚いた。だれもがぜったいに歌い上げないところがこの芝居のセンス。

 なぜキッチンの上に窓がないのか、理解できません。