東京ドーム RED HOT CHILI PEPPERS 『 The Unlimited Love Tour』

 太鼓にさぁ、よく模様が入ってるやん?雲みたいな、マンガの吹き出しみたいな、オタマジャクシみたいな柄が、追いかけっこしてるやつ。三つ巴って言いますね。「天」「地」「人」を表すとか水を表すとかいうけど、あれ、「力(ちから)」のことのような気がする。そして、レッド・ホット・チリ・ペッパーズは、ボーカル(アンソニー・キーディス)とギター(ジョン・フルシアンテ)とベース(フリー)とドラムス(チャド・スミス)が、「四つ巴」になっていると思う。4つが均衡を保っていて、引きあったり、押し合ったりしている。4つのパートが互いに追いかけあって、真ん中に吸い込まれる渦を作ったり、逆に四散して力を外に逃がしたりする。ベースの音に集中するとギターがくっきり聴こえてきて、ボーカルを支え、ドラムスを引き出しているのがわかる。または、ドラムスの拍を聴くと、すべてがぐるぐる回りながら力を発揮しているのを感じる。えと、ここまでついてこれてる?わかる?

 レッチリは、回りに回ってどこへ行くか。力でなにを表現してるか。というと、それは生きる喜びとそこに潜む死なのだ。ドラッグの享楽と、その苦しみと、生の喜びと、死とが、きれいに重なって、生きていれば絶対見ることのない死の世界の荒涼(渦の裏側)をちらりとにおわせる。んじゃないの?そうじゃないの?

 なのに今日の演奏はぁー。どうしたんだあー。ボーカルの声が続かず隙間が多く、ベースは激しく動きすぎ、ギターはキメの高音がキモチ下がっていて、ドラムスは最後の締めを省略したりする。途中、打ち合わせもする。『Scar Tissue』は最初やり直していた。ええー。あたしはレッチリの4つの力の絡み合う、スリリングなとこを聴きに来てるんだよー。どうしてくれるー。急に力が脱けて、椅子にしょんぼり座ってしまう。レッチリと私は同級生だ。やっぱ、年齢って身体に「来る」のかなー。声、きれぎれだなー。うつむいて自分のむくんで年取った手など眺めた。1983年か。

 すると突然——興福寺のあの、すこしコミカルな天燈鬼と龍燈鬼みたいに、フリーとジョン・フルシアンテが向かい合って立ち、演奏が、すぅーっと、立ち直るではないですか。

 ギターのフレットを右手で下から弾き、左手で上から抑えるジョン・フルシアンテの手は素早すぎてすごみがある。ベースは全身を演奏に捧げ(オーバーアクトは消え)ドラムスは小止みなく、ボーカルは若い時と遜色ない。でっかいTOKYOドームで、レッチリは皆守りあうように小さく近くたつ。そこからアンコールの『Give It Away』を弾く。グルーヴがやばい。観客は皆よかったと思って帰っただろう。だけど私はグルーヴなんかじゃ許さんよ。四つ巴が押し合い、引き合う、繊細なうずまきが、観たいもんね。レッチリまだやれる。もっとやれる。