東京芸術劇場プレイハウス 『宝飾時計』

人の躰の中には、行きつ戻りつする時間、「息づく」時計が棲んでいる。灰色に停止したり、手にとれるように蘇ったり、こつこつ進んだり、人間を振りまわし、人間に振り回されながら、時計は生きる。その上、この『宝飾時計』という芝居の中で演じられる「宝飾時計」という芝居があることで、入れ子状に世界はややこしくなり、観ている観客も巻き込まれ、時間と空間は増え、マルチバースっていうか、今持ってる自分の「時計」が、たくさんのありえた可能性の中の任意の組み合わせにすぎなくなる。それは小さい現実であり、多元宇宙の一人の男、一人の女が次々に台詞で繰り出す「トランプゲームの戦争」だ。広い宇宙の小さなトランプ、或いは時間のせめぎ合いが、3Dみたいに、舞台の上に「あったかもしれない恋」を映し出すのだ。

 まず、皆役に適ってて過不足ない。ただ、やり取りがしょっぱな、テレビショッピングの口調に聞こえ入りづらかった。ヒロインゆりか(高畑充希)の頭の回転、悟りが早いことに、ははっと感心した。ちょっとはやすぎんじゃね?と思ったりするのだが、たいていの作品上で女の人は「気づかされる」役回りが多いから、こういう女がいてもよし。終景の詰めがもひとつシャープでなく(時間は死も運んでくる)、もっと自分(根本)好みに寄せていいのでは?考えつめてほしい。客席からはすすり泣きが洩れ、いまの女の人のいまの趣味に合う芝居を、いまの作家が作るのいいなと思う。高畑充希、抱きあう時、それぞれタッチを変え繊細に。成田凌、ぼーっと台詞言ってちゃダメ、ありがとうもごめんもきちんと一つずつ違うはず。足取りにも繊細さが足りない、黒いマントで登場する時着こなして。根本宗子と高畑充希椎名林檎の長く上演できるミュージカル希望。