東京芸術劇場プレイハウス PARCO PRODUCE 2023 『橋からの眺め A View from the Bridge』

 「でも、50代が見えてきたときに、俳優として自分を捉え直さなければ」と、

 言うたね。そんなら私も言う。伊藤英明、身体が硬い。柔軟性がない。だから台詞を忘れたとき、ぽきっと真っ白になる。まず体を柔らかくする。それから、眼で戯曲を読んだ時に、「台詞の調子」を読み取り、それを口で再現すること――台詞の高低、強調、反応するまでの間を「譜」として演技に生かすことができてない。抑揚なく一本調子でずーっと台詞言われたら、たいくつしちゃう。たいくつだ。今日、伊藤は幕開きから15分ほどとても緊張しており、それが後半になって落ち着くにつれ、だんだんと芝居になっていった。この芝居どういうものかわかってるんだろうけど、それが芝居に出ない。緊張しているからだ。こないだの映画(『レジェンド&バタフライ』)観てから、私は伊藤に期待している。逸材だと思う。まだ48歳、どんなにでもなる。

 エディ(伊藤英明)は港湾労働者で、荷揚げをして働いている。妻ビアトリス(坂井真紀)との間に子供はない。妻の姉の忘れ形見キャサリン福地桃子)を溺愛している。彼女ももう一人立ちする年頃だ。そんな時、妻のいとこが二人、イタリアの貧困を逃れて、不法労働者としてアメリカのエディの家に厄介になる。そのうちの一人、ロドルフォ(松島庄汰)とキャサリンは恋をするのだが、キャサリンに執着しているエディは、どうしても結婚を認めることができない。

 エディは現代の(って七十年前だけど…)アメリカに紛れ込んだ古代ギリシア人なのだ。悲しい時には服を引き裂き、瞋恚の炎で我が子を手に掛け、絶望のあまり、その目を潰す。執着がとおーくから、どどどと地響きを立てて斟酌なく運命へとぶつかってくる(芝居もクレッシェンドだよ)トラックみたいじゃなきゃ駄目さ。舞台は圧し潰されるように狭く、またエディの頭の中で広くなり、これがとても小さな話で、同時に大きな話であることを示す。マルコ(和田正人)が椅子を持ち上げるところ、自由の女神なんだねえ。