TOKYO DOME CITY HALL  『TEDESCHI TRUCKS BAND』

 聴けぇ、デレク・トラックス!て感じの導入。

最初の曲はI Am The Moonの中の最初の曲、Hear My Dearだ。めずらしく、デレクが勝手に弾くのだ。ぜーんぜんバンドの音を聴かない。聴かないってことはバンドを調整しない。すごく前に出る。ファニーな音がする。でも平気なのだ。あのさ、前に出たがる人というのは、聴いてないもしくは聴いてないふりをしているということを新たに発見しました。あと、デレクが引っ込みすぎているという通常のカタチは、彼が音を聴きすぎるからなのだ。

 デレク、音を聴けー。でも聴きすぎるなー。というこの相反した気持ちよ。左手を(フレット押さえるほうの手だよ)蔵ったりして、感じ悪いよ。12000円。ヒコーキで耳が変になっていたとしても、もう治っててほしかったね。

 I Am The Moonから、同名曲、足を踏ん張ってサビをうたうスーザン・テデスキがかっこいい。軽快な茶の革のワンピースに、スリットが入っていて、そろいの茶のブーツがかわいいの。

 ホーンセクションの3人が、フリージャズか宇宙酔いかってくらい吹かない。こらこら。ドラムスの二人も最初はノリが悪い。

 デレク・トラックスが調子を取り戻すにつれて、バンドも根から水を吸い上げたようにみるみる元気になる。ホーンは音が強く厳しくなり、ドラムスは二つ頭のある一つの有機体のように見え、デレク・トラックスはものすごい速さで弦を弾き、ときどき、ひらめくようにギターの上に右手の人差し指が現れる。バックボーカルもきれきれだった。

 その状態でMidnight In Harlemを聴いたら、わたし、頭でっかちだったことが分かった。インドの旋律を持ち込むことで、テデスキ・トラックス・バンドのこの曲は、全体に一つのいのりをもっている。エスニシティを超えた、「調和」「共生」の希いだ。自分のこと一つとっても、それはなかなか頭では難しいよね、でもこころのねがい、「おもい」としてそれは伝わってきた。空にぽっかり浮かぶ雲のような希望。その蒸気と質量を感じる。

 調子悪くても機嫌悪くても、現在最強のバンドだ。思い知らされた感じでございます。ちょっと口惜しい。