2017-01-01から1年間の記事一覧

新国立劇場小劇場 シス・カンパニー公演 KERA meets CHEKHOV vol.3/4 『ワーニャ伯父さん』

揺れる葉叢、大きい葉、小さい葉、浅瀬で模様を描いて透明に盛り上がる小川の水、花、滴をためるくもの巣、丸く差し込む日の光。景色をぼーっとみていると、一つ一つが異なる音を発しているような気がしてくる。「調子」を感じる。このケラリーノ・サンドロ…

FUKAIPRODUCE 羽衣 第22回公演 『瞬間光年』

暗い舞台。波の音。スモーク。 ランダムに4つ下げられたやや大きめの電球に、飾りのシートがうろこみたいに貼られている。宇宙のただなかに、電球のように吊るされて、自分のつま先越しに、底深い闇を見る。 窓を開けようとしている男(男ちゃん=キムユス)…

シアターコクーン・オンレパートリー2017 『プレイヤー』

先週お能観たばっかりだからかもしれないが、異界って、目に立たないほどのゆるやかな坂をすり足でのぼり(あるいは下り)、気づかぬうちにたどり着いている場所なのだろうと思う。あるけどない、ないけどある、そんなところ。作者の前川知大も、異界につい…

カクシンハン第11回公演 『タイタス・アンドロニカス』

おもしろい!と驚愕し、さっきまであんなにパンフレット1500円に拘っていたのを忘れる。 可動式の低いイントレに白い覆いが、いい具合に末枯れた感じで継ぎ目の皺を見せている。その上にぎっしりと立つ登場人物たち。エアロンになる俳優(岩崎MARK雄大)が、…

杉本文楽 『女殺油地獄』

世田谷パブリックシアターの舞台の丈いっぱいに広がる大きな暗がりを、こちらも目をいっぱいに見張って見上げる。人形になったような気がする。あの暗さの向こうに、今日あたしが繰り出す膝、伸ばす指先の、決められた道筋があるのだ。そしてその先にキメラ…

日本総合悲劇協会 vol.6 『業音』

〈好きなのにあの人はいない〉明るく暗く危険な愛の歌謡曲が女の声で次々にかかる。7か所で吊られた白い幕。緩んでる。〈あなたと会ったその日から恋の奴隷になりました〉幕の後ろに広がるのは、白く塗られた壁で、キルティングのようなランダムなふくらみを…

渋谷TOHO 『メアリと魔女の花』

『君の名は』があんなに当たったのは、6年前のあの地震と津波の傷を、語りなおして慰め、なだめ和らげてくれたからだ。大きな天災に遭ったあのトラウマと同じように、原発事故のこと、原子爆弾のことも、日本に住む人々の深い傷になっている。あの時、爆発さ…

明治座 『ふるあめりかに袖はぬらさじ』

幕末、横浜の港崎遊郭岩亀楼。病に伏せる亀遊花魁(中島亜梨沙)の世話をやく芸者お園(大地真央)。亀遊はアメリカ人イルウス(横内正)に気に入られてしまい、思う人にも裏切られたと思って剃刀で自害する。それがいつのまにか、立派な辞世の歌を作って死…

彩の国さいたま芸術劇場 蜷川幸雄一周忌追悼公演 『NINAGAWA・マクベス』

劇場を入った途端、巨大な仏壇の白い格子の引き戸(閉じている)が目に入り、「きゃー」という。2015年の公演を観ているのに、胸がときめく。真ん中にその引き戸、両側に舞台端までいっぱいの、金色の扉金具を飾った大きな黒い木の折り戸が一組ずつ、その上…

新国立劇場小劇場 JAPAN MEETS...―現代劇の系譜をひもとく―Ⅻ『怒りをこめてふり返れ』

遠い奥の扉の向こうに白い光が射し、手前に向かって、大きくしっかりと遠近法で作られた屋根裏部屋。横に並列に見るのではなく、縦に、扉から戸棚、台所、ダイニング、居間が仕切りなく見通せる斬新な配置だ。屋根裏自体が、差し掛け部屋のように三角形をし…

東京芸術劇場 シアターウェスト 『OTHER DESERT CITIES アザー・デザート・シティーズ』

舞台は上半分がスクリーンで閉じられ、背板を抜いた棚にも見える枠が、4つほど重ねられて塔のようになり、中にいかつい本が、覗き込むキャビネット照明の厳しい明りにさらされている。上手奥のホリゾントには禍々しい強い影が出ているが、中央に少し離れてお…

世田谷パブリックシアター 世田谷区制85周年 『子午線の祀り』

車の免許を取ると、私どもの田舎では(と、突然司馬遼太郎みたいだが)、関門海峡のあたりへドライブに行くというのが相場となっていて、壇ノ浦の、道の間際まで海のせり出している急カーブに差し掛かると、「出るよ平家の幽霊」「きゃー」と、必ず言ってい…

シアターコクーン CUBE 20th presents 音楽劇『魔都夜曲』

7月19日、藤木直人さんお誕生日おめでとうございます。 藤木直人が今日45歳だと知って本当に驚いた。30代にしか見えないもん。世の中が求めている藤木直人とは、ハンサムな知性派であり、その要求に彼も、よく応えてきたのだと思う。 今日の役はいつもの藤木…

新宿シネマカリテ 『霊幻道士 こちらキョンシー退治局』

古びたエレベーターのB3F表示が光り、今しも降下してきたところだ。扉の中から現れた青い制服の警備員が、異変を感じて耳の横に懐中電灯をかざす。フロアの夥しい血、肉片、停まっていた軽トラックの中を見ると、運転席の男が死んでいる。「!」カメラは死ん…

天王洲銀河劇場 『遠い夏のゴッホ』

「胸が大きくなりませんように、これ以上おとなになりませんように」と、毎晩うつ伏せで寝ていた子供だったので、惑星ピスタチオの『熱闘!飛龍小学校』を観た時は、むっとしていた。大きくなる子が悪者。そういう扱い?だって成長って、みんなに降りかかる…

ムジカーザ 『第九回 上原落語会 夜の部』林家彦いち 音楽ゲスト ユザーン(タブラ)

開場を待つ列に並ぶと、前にいる女の人たちの首が皆細くて白い。あの、ごめんね、落語会的には今日はずいぶんと若い人たちが来ている。 キーンと冷えた会場で、ひざ掛けを配る係の人が、すまなそうに、「もうなくなってしまったんです」という。いいのいいの…

新橋演舞場 七月名作喜劇公演 『お江戸みやげ』『紺屋と高尾』

『お江戸みやげ』 「しわがよる、ほくろができる、腰曲がる、頭ははげる、髭白くなる」って、江戸時代のお坊さんが年寄りのこと言ってて、その他に、「さびしがる」とか「くどくなる、気短になる、愚痴になる」とかいろいろあるんだけど、今自分が着実にその…

熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第四弾 フルボディミステリー 『消えた目撃者と悩ましい遺産』

熱海五郎一座っていうのは、伊東四朗のやってきたような(三宅裕司と伊東四朗の白熱した懐メロ合戦をふと思い出す)、東京の軽演劇を受け継ぐ公演なんだって。 夜の住宅街で痴漢事件が起きる。目撃したのはおばあさんたちだ。観客の目から見て、明らかに別の…

中村橋之助改め八代目中村芝翫襲名披露 六月博多座大歌舞伎        (2017)

はしのすけふくのすけうたのすけ、口の中で何度も唱えながら、開演を待ってる。五分前、青白赤のモダンな祝い幕が上手に消え、黒と緑と柿色の定式幕がそれに変わる。橋之助さんには3人も男の子がいるんだねえと思いながら待っている。はしのすけふくのすけう…

ブルーノート東京 ビル・フリゼル

白黒のエレキギター(テレキャスターというんだって)を抱えたビル・フリゼルとメンバーが舞台に上がる。拍手。 ビル・フリゼールが、「Thank You」という。静かな声だ。そしてルディ・ロイストン(ドラムス)、トーマス・モーガン(ベース)、ぺトラ・ヘイ…

FUKAIPRODUCE 羽衣 第21回 『愛死に』

煉瓦の壁だ。上手の壁、下手の壁がハの字に置かれ、真ん中奥にも煉瓦のかきわりの壁がある。下手に窓のかきわりがあるが、本当に穿たれているのは上手の二階の四角い窓で、小さいバルコニーがついている。ロミオとジュリエットだね。それはとても古い話らし…

六月花形新派公演 『黒蜥蜴』  2017

橄欖緑といいたいくすんだ緑に、時代のついた金色の丸に越のマーク。真上を見上げると四角いマス目の飛び飛びにステンドグラスがあり、天井の梁にはいちいちぜんぶ違う金色の交った装飾がある。この劇場は『黒蜥蜴』にぴったりだ。新派の人が、『黒蜥蜴』や…

Bunkamuraザ・ミュージアム 『ソール・ライター展』

麦わら帽子で街に出る。 「あ、ソール・ライター」 麦わら帽子のつばが視界上方を水平に区切り、キャノピーのように境界を作る。手前と向こう。私と他者。 細かく編まれた麦わらの覆いの下で、外の景色は一層生き生きとして隔たり、近く、遠い。店の前に水を…

木ノ下歌舞伎 『東海道四谷怪談――通し上演――』

「お岩さんてさ、井戸から出てくるやつですよね」違う違う。お岩さんは井戸から出てこん。お岩さんは夫に横恋慕した娘の親に毒を盛られて、顔が醜く変わる。夫はそれを知ったうえで、お岩さんを捨て、若い金持ちの嫁を貰おうとするのだ。凄惨な髪すき(毛が…

一周忌追悼企画 蜷川幸雄シアター 『身毒丸 復活』

少し緩い白いズック。少年(しんとく=藤原竜也)の足の指は、その中で地面や現実につかないよう、固く縮こまっている、とおもう。目に痛いような白いシャツ、母のない子らしく伸びた髪、つーんとまっすぐな鼻梁、すくめたほそい肩。腰高に黒いズボンを引き…

一周忌追悼企画 蜷川幸雄シアター 『ジュリアス・シーザー』

上昇と拡大、『ジュリアス・シーザー』の舞台セットの大階段を見て、そんなことを考える。男の人の世界って、たいてい、上昇と拡大を基盤にしている。少年漫画(例えばドラゴンボール)なんて、上昇と拡大の繰り返しだよ。そして、その裏の、下降(転落)と…

上野の森美術館ギャラリー 『女たちの絹絵』

品。グエン・ファン・チャン(阮藩正 1892―1984)の画には気品があり、それが凡百のファンシーでセンチメンタルな絵、プロパガンダとなるかもしれない宣伝美術から彼を遠ざけている。 その気品の中には、なにか言いがたい悲しさみたいなものがひっそり籠って…

東京国立博物館 特別展『茶の湯』

茶筅とお茶碗持っている。お茶を習ったこともなく、お点前なんて知らないけど、お抹茶が好きなのだ。手前勝手に、(お抹茶のひとり分の量がわからない…。)ってところから、ひとり試行錯誤で、おいしかったり、おいしくなかったり。最近はネットにお茶の立て…

原美術館 蜷川実花『うつくしい日々』

蕃茉莉(ばんまつり)が白と紫の小さな花を咲かせ、深紅の薔薇が身を反らして花弁を巻き上げる季節に、蜷川さんは亡くなっちゃったんだなと思っていた。白、紫、赤。激しい、ヴィヴィッドな色。 しかし、蜷川実花の写真に見る父の死は、淡い、美しいうす紅色…

秋田雨雀・土方与志記念青年劇場 第116回公演 『梅子とよっちゃん』

「あんまり好かないから。西洋人ぶっているから。」 控えめに、身を固くして登場した田村俊子(片平貴緑)は、築地小劇場に参加しない理由をこんな風に言う。 土方与志とその仲間たちが作り上げた、鷹揚で明るく知的な雰囲気を、外側から批評する目、この視…