2019-01-01から1年間の記事一覧
前説はフリップを持つ官房長官のギャグ。答えたくないことはスルーする間合いが巧く、東貴博は生き生きとやっている。だが、そこに女性記者の姿はない。あー、ここがめざす「昭和の茶の間」(パンフレットの作者挨拶より)って意味?エッジィなところに突っ込…
地に足ついてる。それが面白さと、侘しさの源泉だ。 だってさ、舞台いっぱいに建てこまれた老舗の劇団の稽古場が、それ以上でもそれ以下でもなくリアル、天井まで三つに区切って縦に貼られた羽目板が、昭和中期を思わせて、本当に貧しく質素。力の弱そうなク…
君は夜の銀座を見たことがあるか。夕方タクシーがばたんばたんときれいに髪を結い上げた女たちを路上に吐き出し、七時半にもなるとその女たちと食事した客が、得意満面で「同伴」してバァに向かう。目線をどこにやってもきれいな女の人とおじさんしかいない…
この映画の中でワーストと言える嫌な奴は、画面にちょこっと現れるだけのリンゲル自由ドイツ青年団秘書(ダニエル・クラウス)であるような気がした。「二分間の黙とう」を見過ごさず、上に報告して事を大きくする。高校生に話を訊くのに、仲間割れを狙って…
ナイジェル・ホーソーンの『英国万歳!』、ああ観た観たと思うのに、思い出そうとしても、走るホーソーンを全力疾走でおつきの人が追うシーンしか出てこない。それは宮廷中が輪になって王様を囲み、宮廷ごと走って移動してるように見えたなあ。 ジョージ三世…
星新一の黙示録。 日本の本を読む子供なら、小学生の時に一度は読んでいる軽い星新一の、重い背骨を成すような作品がオムニバスで六篇続く。暗い作家だなあ星新一。結構楽しく読んで、すーと忘れてしまったことを申し訳なく思った。 舞台はぴかぴかと反射す…
ごめんよブラッド・メルダウ。こんなに有名かつ人気とは知らず。と当日券を求める長蛇の列にあやまるのだった。しかも今日が今日まで、ブラッド・メルダウがジャズとも知らず。ジャズか。20代のある日、知り合いにジャズのチケットを貰った。ものすごく素…
『ニュースセンター9時』で観たシェークスピアの装束の麗人は、ずいぶん年上のように中学生には思えたが、今となってはそんなに年も変わらないような気がする。若いよね、玉三郎。 幕が開き、ハープやピアノやドラムス、8人のバイオリン、クラリネット2人…
うねる大西洋のように、瀬戸の渦のように、上品なグレーの光る布が、舞台いっぱいに皺の文様をえがいている。黒い壁にパリの建物の遠い輪郭。それも銀色のテープで作られて上品だ。布の上にはCDデッキや本やまくらが浮かんでいる。枕のせいで、大きなベッド…
この劇場もまた、一つの容れもの――うつわ――である。 四角いアクリルの容れものに蛍光灯が点き(カチンと何かにスイッチが入る)、トラック、木々、公衆トイレが、それぞれその中にあって、ゆっくり舞台前へ移動する(カチン)。透明の小さな函の中のブルーの…
うーん。脱お母さん脱物語裏ニナガワ?誰が誰だかわからない、と終演後誰かがロビーでつぶやいていたけど、そこも大事な要素だったのかもしれない。 「私の名前がわからない」世界、名づける人のいない世界、新しい、生まれたのか生まれないのかわからない世…
全篇自然光で撮られた映画、線路の上を二人の女の子がきゃあきゃあ笑いながら遠ざかっていく。その年下の方の女の子は兄さんが死んで、一人ぼっちになってしまったけれど、寄宿舎は窮屈だから、脱け出して、明るい方へ明るい方へと駆け出すのだ。そこでエン…
劇場への階段を上がりながら、漂うかすかな音を聴くために足を止める。鋭い細い風の音。デリケートに選ばれた音だ。岡田将生のハムレットはじめ、皆台詞が、地面から水を吸い上げる植物のように、体の奥底、下の方から聞こえ、嘘がなく、そこがとても素晴ら…
これって、社会や家庭の中でのバランスを、一人の男が成長して新たに獲得していく話なの?いいのそれで? 巨大宅配システムの仕分け部門の仕事に従事する男オリヴィエ(ロマン・デュリス)。朝暗いうちから家を出てチームリーダーとして働く。彼は無力で、馘首…
昔、内田光子が、「私たち(演奏家?ミュージシャン?)は、空間に音を放る人」と言っていた。音っていうのは、みんな、空間を漂ったり、飛んだり、空に吸われていったりするものなのかもしれない。 ジョン・ルーリーの描く人物はたいてい、下半身がない。空…
トライアングルが、船の舳先のように、音楽を切り裂いて進んでいく。そのちりちりいう音が、主音。(ていう?)オーケストラととてもあっていて、作曲したプレヴィンて凄いなーと一瞬で感得する。そしてよく練られた隙のない演奏と緊密な指揮。ありがとうヤニ…
アン・バンクロフトとパティ・デュークが、私の舞台『奇跡の人』鑑賞の、邪魔をするー。特にヘレンが触角のように手をあげてどこまでも歩くロングショットと、無愛想だったサリバン先生がー。 高畑充希、尻上がりによくなるけれど、前半の、ハウ博士(原康義…
おや?幕開け、子供を寝かしつけるアンリ(稲垣吾郎)の息が浅く、弱い。息が浅いと、次に続く妻ソニア(ともさかりえ)の台詞をまたいで続くアンリの感情がぶつ切りになってしまう。ええと、直線の並縫いの運針の感じね、針が布に潜っていても、糸は続いて…
「ミュージカルにおける演技の概念」てものが、もひとつ掴めん。歌唱の安定のために、演技が犠牲になっていいか?演技の充実のために、歌唱が弱くなっていいか? まず、この芝居で凄かったのは、セットだ。ダイナミックで計算され、シーンが移るのが楽しみだ…
難解。集合的無意識(個人の意識の古層にある、人類の、或いは民族の記憶のようなのかな)を扱った話だろうねこれ。 まず、前野健太の「汚泥の歌」は、シンガーソングライター、歌手の歌として大変よく歌われている。でもさ、ちょっとエモーショナルすぎて恥…
暗い舞台に真紅の扁額が置かれ、「古代中国の文字のような英語」でRichardと書いてある。筆字だ。「えー?古代中国文字でいいじゃん」と思うけれど、エキゾチシズムでは終わらないという演出の意志なのだろう。上手にドラムスのようにセットされた赤い胴のふ…
男なのに化粧をされて、映画初出演の俳優はちょっと泣いたと生前語っていたが、寺山修司は『毛皮のマリー』で、同種の涙を一筋、少年欣也に流させて幕にする。昭和、それは明らかに男が威張っている世界で、女は劣ったものであり、女のようにふるまう者など…
ステージの天井真ん中から、客席前方中央を、しゅっと一筋サスぺンションライトが照らす。舞台のつらのスタンドマイクが影をつけ、かつ明るく光る。マイクの後ろにグランドピアノがあり、湾曲した側面に観客の動く人影が映ってちらちらする。ピアノがこっち…
「客席にいる皆様にも、私たちにも、つまずいたり、落ち込んだり、それ以上に笑ったり、何気ない日常の中にかけがえのない人生のドラマがあるはずです」パンフレットから顔を上げて富士山の緞帳を見る。じんわり来るこれ。このトップスター(桐生麻耶=きり…
ごめん。前半紙芝居。それはたぶん、調べたことを、誠実に組み立てたせいだと思う。予想外のことは一つも起こらず、後半の開拓団の主婦池田好子(平田朝音)の卓袱台返しのような発言で芝居が緊迫するまで、事実の羅列をじっと辛抱する。この緊迫に至るまで…
「あんた誰だっけ」第2幕冒頭、4時間の芝居を半分見たところで、心に呟いている。 中国の秦王朝が滅び、漢が勃興するあたり、沛の街の威勢のいいあんちゃんの劉邦(花村想太)を中心とする芝居なのだが、たった今、2500円のぺっらぺらの(表紙いれて14葉)パ…
「うわっひどい男、でも、」と私は必ず付け足すのだった、 「チェーホフほどじゃない。」 失恋の友達を慰めながら、なんでそんなにチェーホフひどい奴だって思っていたんだろあたし。ハンサムでかしこくて世を蓋う天才で、手紙とかやたら出すくせに、肝心の…
『ウィンストン・チャーチル/世界をヒトラーから救った男』(2017)を観ると、世界のあまりの単純さに目を疑うようなシーンがいくつも出てくる。徹底抗戦を叫ぶ地下鉄の乗客たち、その名をメモして演説に使うチャーチル、作戦はうまくいき、ダンケルクのイ…
一階平場へ降りて、ステージを見ながら上手(右)から下手(左)に歩いてみたが、何の変哲もなく、しずーかにギター(素人目には普通のギター)がスタンドに立てられ、華奢な電子ピアノに楽譜が開かれているだけで、何も視界に引っかかってこない。つー、と…
吉田鋼太郎の演出って不思議だ、車のハンドルの「あそび」のように、余裕が芝居のキズを吸い込む。キズが魅力に見える。「あっ、そこ取っちゃうの?」という吃驚も、芝居の輝きを増す。「そこ取っちゃった」の驚きました。「ない」ことで「ある」のが際立ち、…