紀伊国屋サザンシアターTAKASHIMAYA  PARCO PRODUCE 2019 『人形の家PART2』

「あー、ハンマースホイ」 微妙に粗く、そして丁寧に塗られたうす水色の壁と、そこに白く低くめぐらされた腰板を見て、デンマークの画家のことをすぐ思い出すのだった。ハンマースホイは女(妻)の後姿や、ひと気のない室内をよく画題にした画家で、静謐な品…

シアタークリエ KERA CROSS #1 『フローズン・ビーチ』

ぽんぽんひゅるひゅる上がる花火のような会話、どこをとってもぱっと小さく火がつき、火薬が言葉を打ち上げて、金や銀の火花がきらきら海に散っていく。これ面白い話だね。初演1998年、21年たって再演したくなるのわかる。 1987年の夏、海外のある島の広壮な…

シアター風姿花伝 カクシンハン第13回ロングラン公演「薔薇戦争」WARS OF THE ROSES 『リチャード三世』

王冠は血塗られた太陽だ。 グロスター公リチャード(河内大和)は太陽の影にうつる自分のねじれた姿を呪いながら、激しく王冠を求める。七枚に分かれているくしゃくしゃの和紙のような後景のスクリーンの間から、リチャードは足先を見せ、逆子として生まれる…

シアター風姿花伝 カクシンハン第13回ロングラン公演「薔薇戦争」WARS OF THE ROSES 『ヘンリー六世』

文句はいろいろあった。劇場のサイズ感がつかめていず、皆怒鳴って声が割れている。只でさえ役柄の把握が難しいのに、赤薔薇ランカスター家のグロスター公ハンフリー(別所晋)と白薔薇ヨーク家のリチャード・プランタジネット(大塚航二朗)が、髭の生やし…

東京芸術劇場 プレイハウス 『お気に召すまま』

赤い幕が襞を寄せて「額縁」の中にある。開演時間が近づくと、幕は船の帆のように風を孕んでかすかにふくらむのだった。 私の頭の中では、あの幕は風で手前の客席の方へあおられて、高く高く、裾がミラーボールにつくくらいに持ち上がり、役者たちは「額縁」…

板橋区立文化会館大ホール 『柳家小三治独演会』

板橋区大山、すてきなカフェのあるところ。凍らせた紅茶のキューブの上に紅茶を注ぎ、レモンのスライスを5、6枚浮かべて、レモンをつぶして飲む。ゆるいジャズっぽい音楽が聞こえ、冷えて汗を浮かべたコップのように、すべてがゆったりとくぐもって遠く感じ…

2019年7月シアタートラム公演『チック』関連企画 戯曲リーディング 『イザ ぼくの運命のひと』

ヴォルフガング・ヘルンドルフ(1965-2013)ドイツの作家、脳腫瘍を発病し、手を尽くしたが回復の見込みがなく、拳銃自殺。 スクリーンでそんな作者の説明を読みながら、舞台を見ると、中央に上手と下手で少々高さの違う二重が置かれていて、アヒルの親子の…

M&Oplays produce 『二度目の夏』

岩松了版『レベッカ』。そう思ってみると水面下でこわいことがいろいろ起こっているような気がする。水面下のレベッカ。『レベッカ』って、ある大貴族のもとに嫁いだ女の子がえらい目に遭う話。屋敷は前の奥さんの気配でいっぱいで、夫は自分を愛してはいな…

新国立劇場小劇場 『骨と十字架』

よーく調べたね。お疲れ様。解散。 …ってなりました。聖職者の登場人物が5人、名前が呼ばれるのはたったの二回ほど、歌も出ないし踊りもない、しずしずと会話が進行するだけなのに、観客の注意をきちんとひきつける脚本だ。 ティヤール神父(神農直隆)は古…

彩の国さいたま芸術劇場開館25周年記念 世界最前線の演劇3 『朝のライラック』

事件、事故、災害、戦争、ニュースでその死者のことを知ると暗い気持ちになり、数日もその気分から抜け出せないことがある。でもさ、他人事だからいつかは忘れる、思い出せばまた暗い気持ちだけど、彼ら――死者――は忘れられていく。では、こんな風に死にたく…

東急シアターオーブ リンカーン・センター シアタープロダクション 『王様と私』

子どもの頃映画観た時は、どう見ても先生と王様が結ばれるのが王道だと思った、王様は物語の都合で死んでしまったような気がしていた。その影として悲恋が一つ入ってるよね。 1951年ブロードウェイ。まだ公民権運動も何も起きてない。アンナ(ケリー・オハラ…

ユーロスペース 『新聞記者』

杉原拓海(松坂桃李)。外務省から出向して「内閣情報調査室」で働く彼の役名を見て、すぐにあの「スギハラ」、本国の指示に従わずユダヤ人にビザを発行し続けた杉原千畝を連想する。組織に異を立てて人命を守る人、一体そんな人、そんな役人まだ日本にいる…

KAAT神奈川芸術劇場〈中スタジオ〉 KAAT×地点 共同制作第9弾 『シベリアへ!シベリアへ!シベリアへ!』

フットライトが明るく光りまた暗くなる。天井(天井?)に「閊えた」白い風船が四つ、それより低い所に閊えた風船が1つ。スチールの骨組みの上に板が渡され、ドアが落とし戸のように板のあいだに寝かされている。上からと下から同時に生えている白樺、舞台の…

シアターコクーン bunkamura30周年記念シアターコクーン・オンレパートリー2019『美しく青く』

あァオォキィー。青木保(向井理)、顔ちっちゃくて背が高い、とてもハンサム。それがマイナスに働く。もっと顔よくみせて。 赤堀雅秋の芝居では、皆俳優が「自分」に没入し、自分に重さをかけて、綱一本で体を支えなければ、全部がうまく働かない。向井理は…

ブルーノート東京 パンチ・ブラザーズ  (2019、7月)

三角形にとんがった、ダイヤモンドの台座のようなマイク受けに、楕円の大きなマイクがただ一つ載る。あの三角の受け皿が、性能のいいマイクを雑音から守るんだね。 時間通りにパンチ・ブラザーズがさーっと舞台に上がる。下手(舞台向かって左)から、フィド…

彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール 『大塚直哉レクチャー・コンサート オルガンとチェンバロで聴き比べるバッハの〈平均律〉  Vol.2「フーガ」の苦しみと喜び』

背広の若い人が、丁寧にポジティフオルガンを乾拭きして去った。調律が終わったんだね。チェンバロにもたんねんな調律が行われている。二段になった鍵盤は、弾きこなされたあまり、一つ一つに名前がついてそうに見え、個性が鍵盤一本にも出ちゃってる。つま…

新橋演舞場 『笑う門には福来たる ~女興行師 吉本せい~』

「藤山直美が観客怖がっちゃって、ぜんぜん前に出てこない」 1998年、『寝取られ宗介』。まさか売店のおばちゃんが、耳ダンボにして聞いているって思わないもん。 あれから20年、私は藤山直美にとうとう再会できました。「こいつやったんか」と言われてると…

東京芸術劇場 シアターイースト 『ウティット・ヘーマムーン×岡田利規×塚原悠也 プラータナー:憑依のポートレート』

セノグラフィー=舞台美術のこと。 あー、はいはい、学がなくてごめんなさいね、でも緊張しながらスマホで調べて、ちょっと笑った。新しい時代の難しい演劇には、新しい呼び名が必要やんねー。 大体岡田利規という人がよくわからない。それは彼の文章(本)…

ヒューマントラストシネマ有楽町 『COLD WAR  あの歌、2つの心』

なんでもかんでもすーらすらと口に出し、なんでもかんでも説明し、要するにすごく口の立つ自分が、この映画のことは身内に説明できない。話し始めたら泣きそうでかっこ悪い。映画の中で起きたことが、うまくことばにならない。ラジオでこの映画のことを「説…

吉祥寺シアター ロロ 『はなればなれたち』

ロロ、成長していた。そりゃあ以前観たのは2016年だったもんねー。昔は言えてなかった詩的な台詞をちゃんと一旦体に取り込んでいる。「あなた」と「わたし」、「樹木」と「電信柱」、「過去」と「未来」が、平気で入り混じる混沌とした世界をきちんと演じ分…

中洲大洋映画劇場 ナショナル・シアター・ライブ2019 『アントニーとクレオパトラ』

拮抗する世界。最初アントニーはリゾートのような「私」(わたくし)の楽園エジプトと、灰色のビジネスマン、暗い軍服の「公」(おおやけ)の世界をうまく操ってバランスを保ち生きる。公私の別みたいだね。 でもちょっと待って、リゾートなの?アジアを侵食…

博多座 『博多座開場20周年記念 六月博多座大歌舞伎』  (2019)

空梅雨、平日の昼過ぎ、天神をちらちら行きかう夏の白っぽい服装の人々を見ていると、気づくことがある。「今年の流行」を身につけている人が少ない。一度水をくぐった「去年の服」「おととしの服」ばかりだ。目まいのように、一年前、二年前、三年前の夏へ…

東京ドームシティホール 『テデスキ・トラックス・バンド SIGNS 2019 TOUR 』

「ここは…違うよ」 一斉におもちゃのヅラをかぶる30代の女性グループを見ていきなり後ずさる。今日後楽園は大賑わい、人気のライブや遊園地や野球でごった返している。ようやくたどり着いたTOKYO DOME CITY HALLはアリーナと、上品にくっついた二階席、そし…

吉祥寺シアター serial number 02 『機械と音楽』 2019

「10月革命が成就するロシアの歴史的な夜である。と、走ってくる少年、15歳のイヴァン・レオニドフ。人ごみにまかれ戸惑っているらしき少女オリガを発見し、叫ぶ。 イヴァン オリガ! 」 言えてねー。オリガ(きなり)が見えてないし、実体もない。愛がない。…

池袋芸術劇場 上海京劇院日本公演 『西遊記~旅のはじまり 2019』

聴こえてくるものすべてが節。チャイーンチャイーンと鳴る鐃鈸(?)、カカカカと聴こえる小さな平置きの太鼓(たぶん)、銅鑼、どれも声だ。(ついでにいうと、どうして1500円のパンフレットに、楽器の紹介がないのか?挨拶文で優に6ページって驚きだし、こ…

世田谷パブリックシアター+KERA・MAP#009 『キネマと恋人』 (2019)

カチカチとフィルムの回る音がして映画が映し出され、ヒロインのハルコ(緒川たまき)が登場し、刻々と変わる心情を全身で生きる。妹ミチル(ともさかりえ)が謝りに来たと知ると色つきの足袋をはいた足は踊り、夫電二郎(三上市朗)の浮気に棒立ちのカラダ…

熱海五郎一座 新橋演舞場シリーズ第六弾 東京喜劇 『翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission~』

前説はフリップを持つ官房長官のギャグ。答えたくないことはスルーする間合いが巧く、東貴博は生き生きとやっている。だが、そこに女性記者の姿はない。あー、ここがめざす「昭和の茶の間」(パンフレットの作者挨拶より)って意味?エッジィなところに突っ込…

紀伊国屋ホール ラッパ屋第45回公演 『2.8次元』

地に足ついてる。それが面白さと、侘しさの源泉だ。 だってさ、舞台いっぱいに建てこまれた老舗の劇団の稽古場が、それ以上でもそれ以下でもなくリアル、天井まで三つに区切って縦に貼られた羽目板が、昭和中期を思わせて、本当に貧しく質素。力の弱そうなク…

三越劇場 『六月花形新派公演 夜の蝶』

君は夜の銀座を見たことがあるか。夕方タクシーがばたんばたんときれいに髪を結い上げた女たちを路上に吐き出し、七時半にもなるとその女たちと食事した客が、得意満面で「同伴」してバァに向かう。目線をどこにやってもきれいな女の人とおじさんしかいない…

Bumkamura ル・シネマ 『僕たちは希望という名の列車に乗った』

この映画の中でワーストと言える嫌な奴は、画面にちょこっと現れるだけのリンゲル自由ドイツ青年団秘書(ダニエル・クラウス)であるような気がした。「二分間の黙とう」を見過ごさず、上に報告して事を大きくする。高校生に話を訊くのに、仲間割れを狙って…