シアターコクーン・オンレパートリー2019 DISCOVER WORLD THEATRE vol.6 『ハムレット』

劇場への階段を上がりながら、漂うかすかな音を聴くために足を止める。鋭い細い風の音。デリケートに選ばれた音だ。岡田将生のハムレットはじめ、皆台詞が、地面から水を吸い上げる植物のように、体の奥底、下の方から聞こえ、嘘がなく、そこがとても素晴ら…

新宿武蔵野館 『パパは奮闘中!』

これって、社会や家庭の中でのバランスを、一人の男が成長して新たに獲得していく話なの?いいのそれで? 巨大宅配システムの仕分け部門の仕事に従事する男オリヴィエ(ロマン・デュリス)。朝暗いうちから家を出てチームリーダーとして働く。彼は無力で、馘首…

ワタリウム美術館 『Walk this way ジョン・ルーリー展』

昔、内田光子が、「私たち(演奏家?ミュージシャン?)は、空間に音を放る人」と言っていた。音っていうのは、みんな、空間を漂ったり、飛んだり、空に吸われていったりするものなのかもしれない。 ジョン・ルーリーの描く人物はたいてい、下半身がない。空…

赤坂ACTシアター 『俳優とオーケストラのための戯曲 良い子はみんなご褒美がもらえる』

トライアングルが、船の舳先のように、音楽を切り裂いて進んでいく。そのちりちりいう音が、主音。(ていう?)オーケストラととてもあっていて、作曲したプレヴィンて凄いなーと一瞬で感得する。そしてよく練られた隙のない演奏と緊密な指揮。ありがとうヤニ…

東京芸術劇場プレイハウス 『奇跡の人』

アン・バンクロフトとパティ・デュークが、私の舞台『奇跡の人』鑑賞の、邪魔をするー。特にヘレンが触角のように手をあげてどこまでも歩くロングショットと、無愛想だったサリバン先生がー。 高畑充希、尻上がりによくなるけれど、前半の、ハウ博士(原康義…

シアターコクーン シス・カンパニー公演『LIFE LIFE LIFE ~人生の3つのヴァージョン~』

おや?幕開け、子供を寝かしつけるアンリ(稲垣吾郎)の息が浅く、弱い。息が浅いと、次に続く妻ソニア(ともさかりえ)の台詞をまたいで続くアンリの感情がぶつ切りになってしまう。ええと、直線の並縫いの運針の感じね、針が布に潜っていても、糸は続いて…

日生劇場 『笑う男 The Eternal Loveー永遠の愛ー』

「ミュージカルにおける演技の概念」てものが、もひとつ掴めん。歌唱の安定のために、演技が犠牲になっていいか?演技の充実のために、歌唱が弱くなっていいか? まず、この芝居で凄かったのは、セットだ。ダイナミックで計算され、シーンが移るのが楽しみだ…

東京芸術劇場プレイハウス 『世界は一人』

難解。集合的無意識(個人の意識の古層にある、人類の、或いは民族の記憶のようなのかな)を扱った話だろうねこれ。 まず、前野健太の「汚泥の歌」は、シンガーソングライター、歌手の歌として大変よく歌われている。でもさ、ちょっとエモーショナルすぎて恥…

中国国家話劇院 『リチャード三世  理査三世 』

暗い舞台に真紅の扁額が置かれ、「古代中国の文字のような英語」でRichardと書いてある。筆字だ。「えー?古代中国文字でいいじゃん」と思うけれど、エキゾチシズムでは終わらないという演出の意志なのだろう。上手にドラムスのようにセットされた赤い胴のふ…

新国立劇場中劇場 『毛皮のマリー』

男なのに化粧をされて、映画初出演の俳優はちょっと泣いたと生前語っていたが、寺山修司は『毛皮のマリー』で、同種の涙を一筋、少年欣也に流させて幕にする。昭和、それは明らかに男が威張っている世界で、女は劣ったものであり、女のようにふるまう者など…

東京国際フォーラムホールC 『ルーファス・ウェインライト』

ステージの天井真ん中から、客席前方中央を、しゅっと一筋サスぺンションライトが照らす。舞台のつらのスタンドマイクが影をつけ、かつ明るく光る。マイクの後ろにグランドピアノがあり、湾曲した側面に観客の動く人影が映ってちらちらする。ピアノがこっち…

OSK日本歌劇団 『レビュー 春のおどり』

「客席にいる皆様にも、私たちにも、つまずいたり、落ち込んだり、それ以上に笑ったり、何気ない日常の中にかけがえのない人生のドラマがあるはずです」パンフレットから顔を上げて富士山の緞帳を見る。じんわり来るこれ。このトップスター(桐生麻耶=きり…

劇団俳優座 第338回公演 『血のように真っ赤な夕陽』

ごめん。前半紙芝居。それはたぶん、調べたことを、誠実に組み立てたせいだと思う。予想外のことは一つも起こらず、後半の開拓団の主婦池田好子(平田朝音)の卓袱台返しのような発言で芝居が緊迫するまで、事実の羅列をじっと辛抱する。この緊迫に至るまで…

東京ヒューリックホール 『PHANTOM WORDS』

「あんた誰だっけ」第2幕冒頭、4時間の芝居を半分見たところで、心に呟いている。 中国の秦王朝が滅び、漢が勃興するあたり、沛の街の威勢のいいあんちゃんの劉邦(花村想太)を中心とする芝居なのだが、たった今、2500円のぺっらぺらの(表紙いれて14葉)パ…

東京芸術劇場プレイハウス 森新太郎チェーホフシリーズ第一弾 『プラトーノフ』

「うわっひどい男、でも、」と私は必ず付け足すのだった、 「チェーホフほどじゃない。」 失恋の友達を慰めながら、なんでそんなにチェーホフひどい奴だって思っていたんだろあたし。ハンサムでかしこくて世を蓋う天才で、手紙とかやたら出すくせに、肝心の…

新橋演舞場 『トリッパー遊園地』

『ウィンストン・チャーチル/世界をヒトラーから救った男』(2017)を観ると、世界のあまりの単純さに目を疑うようなシーンがいくつも出てくる。徹底抗戦を叫ぶ地下鉄の乗客たち、その名をメモして演説に使うチャーチル、作戦はうまくいき、ダンケルクのイ…

ビルボードライブ東京 ダン・ペン&スプーナー・オールダム

一階平場へ降りて、ステージを見ながら上手(右)から下手(左)に歩いてみたが、何の変哲もなく、しずーかにギター(素人目には普通のギター)がスタンドに立てられ、華奢な電子ピアノに楽譜が開かれているだけで、何も視界に引っかかってこない。つー、と…

彩の国さいたま芸術劇場 彩の国シェイクスピア・シリーズ第34弾 『ヘンリー五世』

吉田鋼太郎の演出って不思議だ、車のハンドルの「あそび」のように、余裕が芝居のキズを吸い込む。キズが魅力に見える。「あっ、そこ取っちゃうの?」という吃驚も、芝居の輝きを増す。「そこ取っちゃった」の驚きました。「ない」ことで「ある」のが際立ち、…

丸の内TOEI 『闇の歯車』

(テレビなの映画なの?) 要所要所で疑問が頭にひらめく。 テレビだったらとってもよかったし満足する。まず、水も漏らさぬ男たちのキャスティング。誰一人見劣りしない。瑛太の眼の光、緒方直人のせっぱつまった充実、大地康雄の笑い、中村蒼のぼそぼそし…

Bunkamuraザ・ミュージアム 『クマのプーさん展』

ニューヨーク公共図書館に所蔵されている本物でなく、複製されたプーやトラーやコブタがいるケースに近寄り、彼女と一緒に来た20代のお兄さんが「かわいい…」とつぶやいている。 そっ、岩波の『クマのプーさん プー横丁にたった家』に載ってた本物の写真が…

パルコ・プロデュース2019 『母と惑星について、および自転する女たちの記録』

とても優れた戯曲を、とても優れた演出で描く母親の呪いと祝福の物語である。 奔放な母峰子(キムラ緑子)の3人の娘は、峰子の遺灰を携えてイスタンブールへ旅に出る。母と、その周りを惑星のようにめぐる娘たち、破天荒な母親はまたその母から呪いと祝福を…

京都国立博物館 平成知新館 『日中平和友好条約締結40周年記念 特別企画 斉白石』

気温15℃の春の日差しの中、窓越しの遠い芝生の上で、京都国立博物館の公式マスコット「トラりん」が来館者に愛嬌をふりまいている。「トラりん」は薄墨色と白の目立つとらの着ぐるみだ。館内の休憩所には、濃い桃色の服を着た10才くらいの中国人少女がいて…

高円寺 カフェkuutamo 『ブックカフェ de 上方落語 笑福亭べ瓶』

「今日の反応を見て次の会のオチを決めようと思います。」えっ。16日の。ごめんね。うっかりしてて。 でも、このべ瓶さんの「死神」は、オチがどうのこうの言う以前の問題のような気がしたよ。つまりあの…どちらのオチも大して面白くない。理に落ちる。 会場…

すみだパークスタジオ 『扉座サテライト公演 LOVE LOVE LOVE 22』

「きみとぼくには脳みそがある。他のやつらのは、《みそ》ばかりだ。」と、『くまのプーさん』で、たしかウサギがフクロに言うとった。 一生に一度くらい、他人に脳を預け、演劇に没入する体験も、わるくないかもしれないなあ、とざわざわするパークスタジオ…

新橋演舞場 『二月競春名作喜劇公演 華の太夫道中   おばあちゃんの子守歌』

『華の太夫道中』 美術 伊藤憙作。 パンフレットの作・演出・題名の次に、その名の出ているのを見て、(あー、そうだろうなあ)と感じ入る。 だってこの芝居、必ずしも「太夫さん」が主役じゃないもん。女の人たちが代々お灯明を上げ、格子を拭き、床を磨く…

三越劇場 『初春花形新派公演 日本橋』

初演大正4年、以来通算24回の公演。この『日本橋』という作品が、新派でいかに大切にされているかわかる。愛が世界の規矩に勝つプロットで、古びないでいる泉鏡花作品だしね。「雛の節句のあくる晩、春で、朧で、御縁日」台詞だって、きゃーすてきと思う。 …

劇団東京乾電池アトリエ公演 『授業』

教場で説明している先生って、しーんとした中、自分の声が響くのを聴きながら、「意味わかってる?通じてる?」って不安な時があると思う。その不安のピークの状態を、イヨネスコは舞台上に意図的に作り出す。 「数」というもの、その概念が、生徒(安井紀子)…

明治座 『50周年記念 前川清特別公演』

「そして神戸」は怖い歌だ。疵のかさぶたを剥がすような、こちらを撃ちにくる竹刀にわざと当たりにいって、「自分から行く」ことで痛さを軽くするような感じ。濁り水に靴を投げ落とす、と歌詞は言うのだが、ぽいっと靴のように女を捨てたのは男だったかもし…

渋谷CLUB QUATTRO  『エディ・リーダー』

チケットの整理番号400番くらい、だというのに会場の人はまだ10番を呼んでいる。早すぎだよ、でもなんか早めに来ちゃうのだ。10番、15番、20番、あまりの番号の遠さに「ははは」と笑う。笑っているうちに順番がすんなり来て、ホールへ入る。今日は椅子がない…

シアタークリエ 『レベッカ』

「モンテカルロ」という、微かに軽薄さを漂わせた明るい土地から、広大で陰鬱な、秘密でいっぱいの「マンダレー」のお屋敷へ、物語は跳躍する。1926年、21歳の「わたし」(平野綾)はうわさ好きの上流婦人ヴァン・ホッパー(森公美子)の〈お話し相手〉とし…