2021-01-01から1年間の記事一覧
日露戦争でもスターリングラードでも、ロシア(ソビエト)の兵はたしか「ウラー」と叫んで敵に攻め寄せてたよ、と思っちゃうのは、この『ズベズダ』のソビエトのロケット研究者たちが歓声を上げる三つのシーンのうち、最後の一つでしか「ウラー」と言わない…
閉塞感!出られない!という気持ちが、冒頭、舞台に飛び出してきた役者たち(見たことあるようなプロジェクション・マッピング)を見ながら付きまとう。空の額縁に取り囲まれたここは、テレビやネットに心を支配されている私(或いは彼)の、たった一人の部…
朽ちかけの、電線を巻き取る巨大ボビン(?)が、ちょっと怖い。古いベンチや機材が投げやりに積み上げられ、フェンスで仕切られている。このくすんだ廃墟を隔てて、休憩用の屋外すいがら入れと、ベンチが中央にある。ベンチだけが、あざやかな青空色。 上手…
ずいぶんよく調べて書かれている。医療の監修や、ジェンダーの観点からの監修も入っている。だからたぶん、あきらかな思い違いというのはほとんどないのだろう。谷賢一は善意の男性で、出産の「当事者性」を掘り下げながらこの作品を書いた。19歳の専門学校…
幕開け直前、オペラ『道化師』の「衣裳をつけろ」がモノラルで流れる。独りよがりにも聴こえる悲壮なテノールだ。あっそうだ、公房の『砂の女』ってモノラルで、単眼だよねってなった。冒頭の「地の文」は男(仲村トオル)の声の高さにそろえてあり、家を出…
ミスター・ダーリング(堤真一)は登場しながらもう、ミセス・ダーリング(石田ひかり)の唇の上に浮かぶ「謎めいたキス」について語る。あそこ、きもだね。戦争ごっこの仲間に入れてもらえない女の子のウェンディ(黒木華)は、「おねがーいなかまにいれて…
真面目にいっちゃうと、あの「宮下公園リニューアル」は、看過してはいけない問題だった。企業に委託し、再開発して「入れない人」をつくる。公共の空間なのにだよ。メンタリストの素(もと)だよね。宮藤官九郎はむきつけにそんなことは言わない。しかしオ…
「サブスクリプション意味がわかんねえ~」(桑田佳祐)と、いう世代であるために、サインインがめっちゃ大変。一か月無料。入るときに「自分に名前をつけろ」といわれてすんごい恥ずかしかった。自分で自分に名前をつける。なにさ。はずかしい。慣れない。…
――あー、バット折れてる。 と、作の細川洋平にも、演出の岩松了にも、ネクストの俳優たちにも、言いたい感じ。不能と去勢の登場する世界、それを権力が規定する世界、岩松は「善悪詳らかならざる世界」を提示したかったのか。その結果人物の欲望がぼやけてし…
うわずっていた。 母小須田咲(熊谷真美)と、実家を訪ねてきた娘来奈(らいな、宮崎香蓮)のやりとりが、もんのすごい音域あがっているうえに互いに近寄っていて、どちらも役柄を打ち消しあっている。特に熊谷真美は主役であり、15年も蒸発していた夫和久(…
ワイドショーのプロデューサー真行寺(岩橋道子)はお買い物好きという設定で、両手にたくさんのショッピングバッグを持って登場する。ショッピングバッグの大きさは均等で、「お買い物好きのリアリティ」ははっきりいってない。しかし、その嵩張るバッグを…
あのー。「人は無意味に耐えることはできない」っていう、古い推理小説を読んでから、あっそうなのねと物語を疑うことをしてきませんでした。それと世の中の物語を求める人、物語に乾いている人って、不幸せな人が多いと思う。いいとか悪いとかではなく、今…
「あっホールデン・コールフィールド」正枝(天野はな)が田宮(久保田響介)に「逃げずに戦争へ行け」と破れた赤紙を握らせるところで、場面は凍り、孤独の中に田宮は残される。サリーは来ない。小学校しか出ていない正枝と大学へ進むであろう優秀な田宮、…
ものすごい音量で荘重な前奏が聴こえるとスクリーンに波しぶきが見え、ヴィクトル・ユーゴーの本の世界が観音開きになって、「レミゼラブル」がなだれ込んでくる。 ガレー船漕ぎ、いちいち芝居が大仰だよと言いもあえず、全てのシーンが並列に矢継ぎ早に繰り…
男は泣かぬがよし とされた明治末期にあって、大逆事件の予審判事を務めた田原巧(西尾友樹)の目の裏側、身体の内側に、さんさんと涙が流れ落ちている。後悔、無念、慙愧、それらすべての思いを込めて、「内側に涙が流れる」。その涙の音を観客は聴き、気配…
んー。今日のラミン・カリムルーちょっと上ずってない?しかも、それが役柄のユダの動揺してるのとなぜか同調していて、動揺だか上ずってんのかどっちかわからない仕上がり。冒頭のギターソロは重さを掛けずさっと進め、照明はテレビだったら怒られるくらい客…
装置家のつくりだした、大きな木の年輪の、傾いた舞台セットが、理詰めでこの芝居を説明してくるにもかかわらず、私のイメージはずっと、ここは(子宮)の中なのだという、どっちかっていうと強迫的な感じであった。「子宮」という日本語は、かつての男たち…
洋学史上、医学史上に大きな名を残す杉田玄白(有馬自由)は、83歳となっている。彼が『ターヘル・アナトミア』を翻訳したいきさつを記した『蘭学事始』には、記載されていない事実が多く、前野良沢の名前もない。それを校訂すべく、弟子の大槻玄澤(山中崇…
や、台詞の言い方修正したんだね。わざとらしいところがなくなってる。と思ったのもつかの間、次の瞬間物凄い悲哀が訪れる。資本を「投入」が、「豆乳」に聞こえる自分の人生に、ショックを受けるのだ。愛とお金と健康、大事な三つの物のうち、私、「お金」…
もちろん今では多くの人がネイティブ・アメリカンと呼んでいて、と頭では分かっているけれど、遠く離れた島国の、そのまた押入れの中に棲んでいるような私には、子供のころに柱にピンで貼った童画のイメージが抜けず、苦労する。ちいさな水彩画の中では、赤…
図書館の本の、「お父さんとお母さんがほぼ子供」ってところでびっくりした中学生はそのあとその人のことをすっかり忘れていた。20代、90分のテープをオートリヴァースにして、どれだけかけっぱなしにしても全然いやにならない音楽が、「ビリー・ホリデイ」…
ゆりかごから墓場まで という、たった10文字ほどのスローガンが、どんだけ大きな波紋と事態を呼んだか、この映画で突然、ぴかっとわかった。教育の充実と福祉の完備が、次世代(マイケル・ケインの世代)をでかく育てたのだ。日本の保守派の作家すら、「イギ…
「宇宙ではあなたの悲鳴は誰にも聴こえない」というTシャツを着てる女の子を町場で見かけて、こわ!とビビったのだが、イスラエル・ガルバンの踊りを見た後だとさあそれはどうかなと思うのだった。さあそれはどうかな。 舞台にはおおよそ三つの円が光に照ら…
LAの小さな教会に立つアレサ・フランクリンの顔は、硬く、これから起きることへの不安で小さく見える。そこ、私は本当に驚いた。あのアレサ・フランクリン、ソウルの女王、全力過ぎて「ニュアンスないやん」とこっそり貶していた大歌手が、心配の余り脅えた…
上手(かみて)、下手(しもて)に向けて段々が高くなる二つの階段状のセットも、その上の平場の二脚ずつの椅子も、中央の机も、出入り口も背景も、あらゆるものが白い。そこに青い光があたって、今舞台にある全てのものが、ほんとは透明なんだといいたそう…
ディヴィッド・バーンが、机を前にして椅子に座る。カメラはその映像を真上から撮る。ディヴィッド・バーンは両手をきちんと机の上に出している。手の間に脳の模型がある。カメラが切り替わり、彼は模型を左手に取る。 ディヴィッド・バーンが「脳を見せてく…
「そんなんじゃないから俺たちの笑いは」 これまで3回熱海五郎一座の芝居を観たけれど、今日のはこんな声が聞こえてきそう。まず、角ばった五輪マークのある持ち運び卓を、首から提げた外国語訛りの男が出てくる。スーツだ。演じるのは深沢邦之である。この…
ラミン・カリムルーとハドリー・フレイザーが、東京のリハーサルルームから配信で歌を届ける第二部。 最初の一曲目は『ラ・マンチャの男』から「The Impossible Dream」をデュエットした。かわるがわる歌い、[ And I know…] から高音をハドリーが、主旋律を…
神の言葉はひどく遠い。 「FAKESPEARE」という、一種の看板が、舞台の頭上高くかかっている。誰にも聞かれない言葉 を射程に置きつつ、芝居のことを考える。誰かが泣きながら語る、すると客席の私たちはその言葉を聞く。誰かが独り言をいう、やっぱり私たち…
(ミュージカルの『レ・ミゼラブル』観たことない…。)弱気になりながらアメリカの配信サイト「MANDOLIN」をチェックする。5月22日朝9時から、ラミン・カリムルーとハドリー・フレイザーの『ザ・リハーサルルーム』を聴くためだ。今日がパート1、29日…