2023-01-01から1年間の記事一覧

浅草公会堂 尾上右近 自主公演 第七回『研の會』

「雷門の先、二つ目の通りを右折、」観光人力車のお兄さんに教えてもらって角を曲がる。ぎらりと白く道が光り、暑いぜあさくさ。浅草公会堂の今日は、尾上右近の自主公演第七回『研の會』だ。 演目は『夏祭浪花鑑』と『京鹿子娘道成寺』となっている。門外漢…

シアタークリエ 『家族モドキ』

私の席の周りからは鼻をすする音が聞こえ、忙しくハンカチが取り出され、終演後には思わずといった感じで立ち上がる人もいる。ねー。舞台に掛ける合格点の芝居って、せめてこのくらいじゃないとダメでしょう。 一軒家に一人住む男高梨次郎(山口祐一郎)。彼…

I'M A SHOW 朗読劇 『あの空を。』 別バージョン

はーい、『あの空を。』別メンバーで、もういちど。一言で言って、今日の人たちは、最初から集中していた。初日メンバーは、初日だということでなにかと気が散ったのか、中盤まで集中が今一つだったのと、ボールとか本物握らせてもらえなかったんだよね。今…

本多劇場 『ピエタ』

ヴァイオリン(向島ゆり子)、ヴァイオリン(会田桃子)、キーボード(江藤直子)の三つの組み合わせなのに、音が厳しく、弓は自在に弦の上を走り、鋭く深く鳴り、弾き手が思った通りの、思った以上の、いい音楽がうまれる。この『ピエタ』の音楽、よかった…

I'M A SHOW  朗読劇『あの空を。』

2020年、中止になった夏の甲子園——全国野球大会と、その大会を目指していた3人の高校生のその後を語る。 語り手と37歳独身のOBを升毅が、マネージャーのサワムラ(テルテル)を安井一真、ピッチャーヒロトを小澤雄大、苦い転落を味わうマツオを加藤大悟が演…

duo MUSIC EXCHANGE 『SPARKS』

Take Me For A Ride のオーケストレーションの(?)カラオケ(?)に乗って、バンドのメンバー、ロン・メール、最後にラッセル・メールが現れる。テイクミー、テイクミー、テイクミ、テイクミ、テイクミ、フォーアラーイド。ここ数日、スパークス聴きっぱな…

渋谷TOHO  『君たちはどう生きるか』

『猫の恩返し』(2002)の、塔の自壊を見た時、そらもう驚いたもんだった。えー、ジブリの若手、塔(宮崎駿)の自壊待ってんのー?頑張って競(せ)ったりしないんだー、そんだけすごいんだー。と、いうような感慨だったような気がする。ちょっとー、も少し…

国立劇場 初代国立劇場さよなら公演 第104回歌舞伎鑑賞教室 『双蝶々曲輪日記 —引窓—』

花道に立った羽織袴の端然とした男の人の中に、とつぜん、江戸時代の身振りが忍び込んできて、カクンカクカクキリッと「見得」を切るのだった。「社会人のための歌舞伎鑑賞教室」の解説は澤村宗之助だ。私の席は花道横だし(わーい)、アナウンスは落ち着い…

TOHOシネマズ日比谷 『怪物』

うつろな心。うつろな心はうつろな家に棲んでいる。麦野早織(安藤サクラ)と息子湊(黒川想矢)の家は、やけに音が響く。まるで、どこかに朽ちた洞(うろ)があるみたいだ。湖のほとりの町の中心部で火事が起きている。燃えている。古い雑居ビルの看板が、…

浅草公会堂 『神谷町小歌舞伎』

幕が上がると二双の金屏風の前に中村橋之助が平伏している。橋之助はきりっとした声でこの興行がかなったことのお礼を言い、3年前のコロナ下に、「神谷町小歌舞伎」の構想が立ち上がったことを述べる。一か所言いそこなったけど、左右をきっとみて、お辞儀を…

シアタートラム 劇団チョコレートケーキ 『ブラウン管より愛をこめて ー宇宙人と異邦人ー 』

今日、この芝居初日。特撮ヒーロー番組を作っている「東特プロ」の制作、岸本次郎(林竜三)の第一声が、「東特プロの世界」を召喚するのに失敗してました。ここからしばらく、芝居がすんごいぎこちなかった。それは衣装のせいもある。80年代後半から90…

座・高円寺 チーズtheater第七回本公演『ある風景』

チケット売り場前の、小さいお知らせ看板に、びんびん反響するスタッフの声を聴いた時から、悪い予感はしていた。この演出の人、聴覚に繊細さを欠く。さーさーという音は「雨」ではなく、「雨の体(てい)」だったし、俳優が舞台から姿を消しているとき聞こ…

新橋演舞場 熱海五郎一座新橋演舞場シリーズ第9弾 『幕末ドラゴン クセ強オンナと時をかけない男たち』

まず、「とにかく明るい安村 安心してください」で検索。そこからだよ。なんにも知らないんだもん私。イギリスの人と一緒。 幕が開いてからの坂本龍馬(東貴博)の台詞が、おりょう(檀れい)のことを言っているのか、それともうっすらした未来の記憶なのか…

歌舞伎座 『六月大歌舞伎』義経千本桜

今日の仁左衛門は、「いがみの権太」。ゆすりたかりで日銭を稼ぐ小悪党だ。でも黙阿弥みたいなピカレスクロマンではない。「いがみの権太」を家庭生活から照射する、ちょっと変則な、江戸時代の作品じゃないみたいな役なのだ。つまり、仁左衛門が、この役を…

東京芸術劇場プレイハウス NODA・MAP第26回公演 『兎、波を走る』

雲散霧消。人物の一人一人、出来事の一つ一つが、VRを覗くのをやめた人みたいに(のぞいたことはないのだった…)全部消えてしまう。 すべてはヴァーチャルだ。ということは、実は、すべてが現実なのかもしれない。1960年代、盛り上がった「つよがり、思…

博多座 『六月博多座大歌舞伎』2023 夜の部

船乗り込みは大盛況だったと聞くのに、水曜夜の博多座客席はちょっと寂しい。福岡の人、わかっとうかなー。東京と福岡は、1000キロ離れている。1000キロ離れたところで歌舞伎が2週間興行する。すごくない?お金のある役所の偉い人とか、全員こなきゃダメでし…

新国立劇場小劇場 シリーズ未来につなぐもの 『楽園』 

うちの近所のお地蔵さんに頭を下げる人が年々増えてるのを見るにつけ、なんだろ、目には見えないもやもやした網、「従順」や「奉仕」をひたひたと要求してくるものを感じてひゃあーとビビっているのだが、いまのところだれもそれを気にしてないみたい。たと…

アマゾンプライム 東映創立70周年記念作品 『THE LEGEND &BUTTERFLY レジェンド&バタフライ』

木村拓哉、『ター』観たかなあ。ケイト・ブランシェットの、総身を「ター」に捧げる役作り、冒頭、ただ出番を待ってるだけなのに、緊張した顔つきが様々に変わるとことか凄いよね。あんまり顔を他人から注視されていると――アイドルってそうだと思うけど――人…

明治座 『水谷千重子50周年記念公演 大江戸混戦物語 NINJAR ZONE』

「水谷千重子50周年記念公演」のパンフレットの最初のご挨拶は、「水谷とたった二人で創業した」社長のそれから始まり、正体を匂わしたり決してしない。「水谷千重子を生きる者」が、どれだけ強い意志でそれを貫き徹そうとしているか、容易に想像できる。な…

国立劇場 初代国立劇場さよなら公演六月歌舞伎鑑賞教室 『日本振袖始 一幕 八岐大蛇と素戔嗚尊』

30年以上前、歌舞伎を研修で観にいった家族は、いまでもいうのだ、「団十郎って、さすが市川宗家なんだよな、りっぱなもんだった」。それからしょっちゅう歌舞伎観てるかっていえばそんなことないけど、「りっぱだった」って絶対言う。「若い時に一回歌舞伎…

TOHOシネマズ日本橋 『TAR ター』

あのー、クレヨンみたいな油性の、太い芯の色鉛筆あるでしょ?芯の周りは紙で支えられてて、ミシン目のとこを糸で引っ張ってぐるぐるっと紙をはがし、芯を出すやつ。『TAR』を見て、私、あの色鉛筆を思い出した。 子供たちの声の中から――鳥の声の中から、知…

紀伊國屋ホール 秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場 第130回公演『老いらくの恋—農の明日へ』

「老いらくの恋」「農の明日へ」…題名が、割れてるよね?前者は農家の老年の男農夫也(のぶや=葛西和雄)が虜になり、昼夜分かたず夢中になっているものや、彼の日常生活を語り、後者は「農業」について、その国内自給率が均して38パーセントであることを…

世田谷パブリックシアター 『ART』

マルク(イッセー尾形)は航空エンジニア、セルジュ(小日向文世)は皮膚科医、イヴァン(大泉洋)は文房具の会社に勤めてる。これさ、いつかは破綻が来る友情だったのかもね。エンジニアは「内部」を扱い、皮膚科医は「表面」を専門とする。以前は繊維を、…

新宿・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA 劇団民藝『カストリ・エレジー』 

えー、これ30年前に、鐘下辰男が書いた作品?ちょうどそのころ、ゲイリー・シニーズとジョン・マルコビッチの、『二十日鼠と人間』観たなあ。スタインベックの原作に、鐘下が付け加える人間の複雑さ(戦争で日本人の負った傷、負わせたことでまた負う傷)が…

東京都美術館 『マティス展』

アンリ・マティス(1869―1954)のごく初期の伝統的な筆致の絵、『読書する女性』(1895)は、作家26歳の作品だけど、さあっと国に買い上げられている。戸棚の上の白いランプ様のもの、ぼんやりした聖像らしきもの、茶の小さな瓶、鮮やかな緑のちょっとアンフ…

東京建物 Brillia HALL 『BACKBEAT』

初期ビートルズの一員スチュアート・サトクリフ(戸塚祥太)の恋人アストリッド(愛加あゆ)が、なんかいまいちつまらない女の人に作られたまま放置されているのは、これ演出(石丸さち子)の意図なのかな。スチュとアストリッドの愛は、フェイクにすぎない…

世田谷パブリックシアター インバル・ピント『Living Room』

こないだうち、一生懸命テレビ版を見ていた『エヴァンゲリオン』というのは、少年の悪夢のような第二次性徴期を、克明に描くものだった。インバル・ピントの新作『Living Room』は、その少女篇、ていうか、ガールズエヴァンゲリオンみたいだったなあ。エヴァ…

新宿バルト9 『静かなるドン』

ヤクザ映画、キョーミなし。マンガも映像も全く見たことなくて、ごめんね。現代日本でヤクザ映画無視して生きてきた、そのこと自体私が社会と関係なかったことを表している。役職順に並んで昼食から帰ってくる会社員を、ばかばかしいと笑えない、つらい男の…

シアタートラム イキウメ『人魂を届けに』

「人魂」みたいな芝居よねー。深山幽谷、どこだか知れない森の奥に、山鳥さん(篠井英介)は棲んでいる。「おかあさん」と呼ばれる彼女の家の中には、男たちが、点々と胎児のように眠りながら「落ちている」。そこへ、死刑を与えられて死んだはずの男の「魂…

紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA 『KOKAMI@network vol.19 ウィングレス 翼を持たぬ天使』

一人の天使(榊原一郎=福田悠太)が女(絹田玲菜=大野いと)に惚れ、人間として地上に降りる。女に振られた天使は、また天上に戻ろうと、人を本当の意味で救うため奮闘し、スピリチュアル団体の神の声を名乗る男(神山英雄=渡辺いっけい)と敵対する。…こ…